アンハッピー・ウエディング〜後編〜
ま、まぁ許容範囲じゃないか?

俺は、自分にそう言い聞かせた。

パプリカカレーは異質だけど、かぼちゃカレーは普通だろ?

むしろ美味いじゃん。

夏野菜のカレーだと思えば。全然アリ。

あとは玉ねぎだよ、寿々花さん。

玉ねぎの甘みが、カレーの味をより引き立てる。

ニンジンとじゃがいもはともかく、玉ねぎは欲しいよな。やっぱり。

果たして寿々花さんは、玉ねぎの存在に気づいてくれるだろうか。

「他には、えーっと…何が必要かな…」

玉ねぎだよ、寿々花さん。玉ねぎ。

「おイモが白くて、かぼちゃが黄色だから…。他には…あ、そうだ。緑が欲しいかな」

…緑だと?

「緑色の野菜…あ、あった」

寿々花さんは、手近にあったブロッコリーを手に取った。

玉ねぎとは似ても似つかない。

ま、まぁセーフだろ。ブロッコリー入りのカレーは普通に…。

「それから…あ、これ知ってる。お洒落な料理にいっつも入ってる奴だ」

そう言って、束になった大容量パセリをかごに放り込む寿々花さん。

ちょっと待て。早まるな。

「あ、これ綺麗な色だー」

今度は、野菜売り場に隣接する果物コーナーに突入。

皮付きの丸いオレンジを手に取り、かごに入れる。

野菜ですらなくなってきている。不味い。

「あと、これと、これとこれとー」

次々に、目についた品物をかごに入れていく。

レモン、スイカ、ブドウ…の順に。

とんでもないカレーが出来上がろうとしている。

あぁ…もう修正不可能。

「よし、お野菜はこれで良いかな」

この時点で、もうお使い失敗してるような気がするんだが?

これ、このまま続行して良いのか?

「次はー…うーん。他に何が入ってるかな、悠理君のカレー…」

頑張って思い出そうとしてくれるのは、努力が感じられて良いんだけどさ。

よく考え直してみてくれ。俺のカレーに、パセリやオレンジなんか入ってたか?

入れてねーから。一度として、そんなもの。

「あ、そうだ。カレーにお肉入れないと」

おぉ、大事なことを思い出したようだな。

そう、カレーに肉は必須だぞ。

玉ねぎもじゃがいももニンジンも入ってないけど、肉が入ってたら、大体カレーっぽくなる。

寿々花さんは、そのまま肉売り場に向かった。

さて、問題はカレーに入れる肉を、寿々花さんが見分けられるかどうかだ。

ちなみに、買い物メモには、牛バラ肉、と書いて渡した。

しかし、メモを紛失した寿々花さんが、そんなことを覚えているはずもなく。

「うーん。どれかな…いっぱいあってよく分かんないや」

…無理もない。

ある程度料理に慣れた人じゃないと、パック売りされた肉の区別なんてつかないよな。

一応パックに書いてあるけどさ。豚こま肉、とか鶏胸肉、とか。

文字ちっちゃいし、見た目は大体どれもピンクで、ぶっちゃけあんまり違いが分からないし。

買い物素人である寿々花さんには、まだまだハードルが高いことだろう。
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