アンハッピー・ウエディング〜後編〜
本日の、男子部一年生の授業は。

新校舎からの出張教師を迎えての、芸術の授業である。

芸術って何すんの、って思うだろう?

もう面倒臭いからさ。スケッチブックに各々好きな絵でも描いててください、みたいな授業が良かった。

そうしたら、間違い探しでも描いて、寿々花さんが帰ってきたら渡していただろうに。

きっと喜んでいたはずだ。

しかし、そんなに簡単な授業ではなかった。

この季節は「芸術の秋」なんだから、「芸術的な感性を養う」為に云々、長ったらしい説明が為された。

要するに、「男子部の粗野な生徒達は、芸術的な心なんて皆無だろw」って馬鹿にされてるってことな?分かる分かる。

そりゃ確かに俺は、ご高尚な芸術を解する心なんて持ってないよ。

円城寺や、新校舎のお嬢様とは違うからな。

余計なお世話だ。この野郎。

で、どうやってその「芸術的な心(笑)」を養うのかというと。

午前中は、新校舎の視聴覚ルームを借りて、映画を一本観せられ。

更に、その映画の感想文を原稿用紙に書いて。

午後、今度はその感想文を皆の前で読み合って、互いに討論しましょう。というもの。

新校舎では、こういうのはよくある授業らしい。

ふーん。プチ討論会みたいな感じ?

…で、これの何処が芸術的な心を養う(笑)授業なんだ?

関係ある?これ。芸術。

なんかズレてね?

クラスメイト皆、そう思ったに違いないが。

偉そうに授業内容を説明する高飛車系芸術教師を前に、誰も何も言い出せず。

あれよあれよという間に、新校舎の視聴覚ルームまで連れて行かれた。

嘘だろ。ここに来て、また新校舎まで歩かされるなんて。

如何せん、乙無以外全員筋肉痛で、全身の動きがカクついているから。

そりゃもうのろのろと、先生が溜め息をつくほどのスローペースだったが。

皆の足取りが重いのは、筋肉痛のせいだけではないだろう。

映画を観させられる…くらいなら、別に良いよ。

映画を観ている間は、机に突っ伏して寝てようと、余所事考えてようと、好きにすれば良いが。

その映画について感想文を書かされるとなれば、話は別だ。

後で感想文を書かなきゃいけないなら、興味がなくても、面白くなくても。

その映画の内容がどうであれ、ちゃんと最初から最後まで観なければならない。

おまけに、その感想文を皆の前で読み合い、互いに討論するとなれば、もっと大変。

下手くそな感想文は書けない。それなりに真面目に書かなきゃいけないだろう?

昨日に続いて今日も、なんて面倒臭い授業だ。

新校舎からの出張教師、ろくなもんじゃない。

その点、昨日のハーフマラソンは、確かに無理難題ではあったけど。

頭を使う必要はなく、ただ走るだけで良かったから…何も考えなくて済んで、そういう意味では楽だったのかもしれない。

…いや、楽ではないけどな。全く。
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