アンハッピー・ウエディング〜後編〜
しかし。

いくら捻り出そうとしたって、原稿用紙5枚分はさすがにキツい。

わざと遠回しな言葉遣いばっかりして、同じ内容を言葉を変えて二回も三回も繰り返して。

無意味な句読点をつけまくって、それこそ「私は、この、戦争は、悲惨だと、思いました。」みたいに、カタコトな喋り方になっていた。

が、そこまでしても、原稿用紙5枚は埋まらず。

3枚分までが俺の限界だった。

残りの新品の原稿用紙2枚を前に、頭を抱えながら昼休みに突入。

やべーよ。これどうすんの?あと2枚。

俺だけじゃなくて、他のクラスメイトも真っ白な原稿用紙に四苦八苦していた。

が、高飛車系芸術教師は、そんな俺達に「無理なら3枚でも良いですよ」と妥協してくれる優しさはなく。

四時間目の授業が終わって、昼休みに入る直前。

「書き終わらなかった人は、昼休みの間に書いておいてください」と言って、さっさと新校舎に帰っていった。

畜生。あの先生には優しさというものがないのか。

そういう訳で、クラスメイトのほとんどが、まだ新品の原稿用紙を机に置いたまま、昼休みに突入。

どうしよう。これ、昼休み間に書き終えられるだろうか。

この状態で昼休みになったって、とてもじゃないけど落ち着いてランチを楽しめる心境ではない。

白紙の原稿用紙が、視界をチラつく。

「ちくしょ〜っ!これどうしたら良いんだーっ!」

先生が教室を立ち去り、昼休みを迎えるなり。

雛堂は頭を抱えて、机に突っ伏して悶絶していた。

その気持ち、痛いほどよく分かる。

多分、今皆同じことを思ってる。

どうしたら良いんだ。この白紙の原稿用紙。

「好きな映画だったら、原稿用紙10枚でも20枚でも感想書きまくれるけどさぁ…。あんな、見るだけで気分悪くなりそうな鬱映画で感想文なんて、書ける訳なくね…!?」

「俺も全く同じ気持ちだし、クラスメイト皆同じ気持ちだと思うけどさ…。雛堂の好きな映画って何?」

「そうだなー。最近は…『エアコンの怪異』かな」

出たよ。雛堂お得意の、「家具家電シリーズ」のホラー映画。

そんな映画で感想文10枚も書くな。

「つれぇ。めっちゃつれぇ…!」

「雛堂は…あと何枚残ってるんだ?原稿用紙…」

「…4枚…」

雛堂は、悲しそうな小声で答えた。

ってことは今、1枚しか書いてないってこと?

そりゃキツいわ。

それ、昼休みまでに書き終わるのか?もう無理なのでは?

「悠理兄さんは?まさか書き終わったってことはないよな?」

「俺もまだだよ…」

「なーんだ、自分だけじゃなかったんだ。良かったー」

「おい、一緒にすんなよ。俺はもう3枚書いてるからな。あと2枚だ」

…まぁ、その「あと2枚」がキツいんだけど。

「つーか、もう5枚書き切った奴なんているのか?ほとんどの人がまだ…」

「それこそ、あなた方と一緒にしないで欲しいですね。僕はもうとっくに書き終わりました」

と言ったのは、勿論俺達のクラスの化け物、乙無であった。

マジかよ。

乙無の奴、もう感想文書き終わったのか?

走るのも速いし感想文書くのも早いとか、あんたは一体何なんだよ。
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