アンハッピー・ウエディング〜後編〜
おぉ。乙無、あんたやるのか。

「あなたが一番ですか?どうぞ、教卓の前に」

乙無は俺達と違って、全く尻込みする様子はなく。

高飛車系芸術教師に誘われるまま、教卓の前に立ち。

堂々とした様子で、自分の感想文を読み始めた。

常日頃、中二病発言の連続で、俺からも雛堂からも、クラスメイト達からも呆れられている乙無だが。

こういう時は、素直に格好良いと思う。

自ら先陣を切って、教卓の前に立って発表するとは。

潔いよな。

あんたさ、中二病キャラやめて、こういうキャラに徹した方が格好良いんじゃね?

…とはいえ、感想文の中身は、映画に対する駄目出しの連発だった。

「映画の中で◯◯のシーンがありましたよね?あれは実際19◯◯年に起きた某地方の◯◯という事件のオマージュだと思いますが、実際には生存者が○名もいて撤退したのに、映画では全滅だと誇張されて…」

とか。

「主人公陣営が◯◯するシーンがありましたが、実際の第二次世界大戦であのような行為が軍隊の中で行われた、という軍事記録はなく、捏造だと思われます」

とか。

「敵軍が◯◯を◯◯するシーンがありましたが、あれが行われたのは某地方の◯◯戦争で行われた行為であって、第二次世界大戦のヨーロッパでは行われていません。あの時代、まだあの兵器は存在してませんから」

とか。

原稿用紙6枚も、何書いてんだろうなぁと思ってたが…。

まさか、2000文字に及ぶ映画への駄目出しとは…。

これには、芸術教師も目が点になっていた。

そんなシーンがあったのは覚えてるけど、それが駄目出しされるような内容だったとは思わなかった。

乙無は博識であるが故に、そういう実際の戦争との矛盾点が目について、気になって仕方なかったんだろうなぁ。

気持ちは分かるけど、乙無。それじゃあ感想文じゃなくて、ただの批判書だぞ。

「…以上の理由で、今回の映画は捏造だらけの、事実に反した駄作だと思いました。…実際、戦争ってもっと生々しくて悲惨ですよ。美化し過ぎです」

と、締めくくって発表終了。

俺達にとっては、充分生々しいし悲惨な映画だったけど…。

乙無にとっては、全然大したことなかったらしい。

いやはや。

このような批判書を、先陣切って皆の前で堂々と発表するとは。

相変わらず、大した器だよ、乙無は。
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