アンハッピー・ウエディング〜後編〜
雛堂の感想文は、確かに感想文だった。

乙無みたいな批判書じゃなくて。

だが雛堂の「感想」は、映画の内容に対する感想と言うよりは…。

「全体的にあの映画は照明が明る過ぎ」だの。

「あの役にあの俳優は似合わない」だの。

「映画セットのクオリティがいまいち」だの。

「主題歌が映画の内容にあってない」だの。

ストーリーじゃなくて、映画そのものの構成に対する批評だった。

成程。俺にはなかった着眼点。

映画(主にホラー映画)に造詣の深い雛堂だからこそ、そういう点が目に付いたのかもな。

高飛車芸術教師も、この雛堂の意外な着眼点にびっくり。

まさか、そこを駄目出しされるとは思ってなかった。みたいな。

俺もそう思ってた。

ストーリーに全然関心が持てないが故に、照明とか舞台装置とか役者とか、そういうところに注目してしまったんだろうな。

良いんじゃねぇの?別に。

映画にとっては大切なことだろう。それも。

何より、どのような感想を持とうと、それは個人の自由というものである。

ともあれ、これで発表終わり。

やっと終わった、とクラスメイトがホッと胸を撫で下ろしたのも束の間。

「それでは、全員の発表が終わりましたので、これから討論会に移ります」

高飛車系芸術教師のその一言で、俺達は思わず「げっ」と言いたいのを必死に呑み込んだ。

…そういや、そうだった。まだ終わらないんだっけ。

むしろ、ここからが本番と言うか…メインテーマと言うか…。

…討論って、何すれば良いんだ?

教師に言われるがまま、俺達は互いに机を移動させ、

生徒達が輪になって、お互いの顔が見えるよう、向かい合うようにして座った。

クラスメイトは乙無を除いて、面倒臭そうな戸惑ったような、複雑な表情を浮かべていた。

多分、俺も同じような顔になってると思う。

分かる、分かるよその気持ち。

もう発表は終わったんだから、早く解放してくれよという、そよ気持ち。

俺も痛いほど分かる。

だが、勿論芸術教師には、俺達を解放する気はなく。

「お互いの発表を聞いて、思ったことを話し合ってください」

と、居丈高に指図した。

…思ったこと…って言われても、なぁ…。
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