アンハッピー・ウエディング〜後編〜
別に、わざわざ討論するようなことは何もない。

大抵のクラスメイトは、大抵同じような内容の感想文だったし。

「あんたもそう思ったのか?」「うん、思った」みたいな同意合戦をするしかない。

でも、討論会ってそういうことじゃないんだろ?

誰かが意見を提示して、それに対して賛成意見や反対意見を口にして。

今度はこの意見に対して、また賛成したり反対したり…それを踏まえて、また別の意見を出したり。

そうやって少しずつ話を発展させていくのが、討論会の醍醐味なんだろう。

それは分かるよ。討論会なんてろくにやったことはないけど、その程度の知識はある。

が、いきなりそんな高等テクニック(笑)を実践しろと言われても、そう簡単には出来ない。

大体、討論するような意見がある奴、誰かいるか?

なんかさ、こういう時って、賛成意見を口にするのは比較的容易だが。

反対意見を口にするのって、ちょっと勇気が要ると思わないか?

誰の意見に反対したら、その人の人格そのものを否定してるような感じがして…。

「あんたはそう言うけど、俺はあんたの言ってることは間違ってると思う」って、面と向かって突き付ける訳だろ?

角が立ちそうな気がしないか?後に遺恨が残りそうな気が死ない?

そんなつもりは、全然ないんだけどな。

…って、それは考え過ぎか。

討論会は討論をする場所なんだから、反対意見を口にすることを躊躇っていたら、討論にならない。

そこは皆割り切って、思ってることを思い思い自由に口にすれば良い。

その過程で、俺の意見が否定されても、それは文句言えない…と。

…腹を割ったのは良いのだが。

「…」

「…」

「…」

俺達は、互いに無言でお見合いしてるだけ。

まず誰かから、何か意見が出てこないことには…賛成意見も反対意見もない。

討論会をやっているとは思えない。静かな教室である。

引っ込み思案な男子高校生です。はい。

そうじゃなくて、皆、ただ何を喋って良いか分からなくて困ってるだけだよ。

如何せん、討論会なんてまともにやるの、初めてなんだからな。

これがもっと人数がたくさん…せめて欠席者が一人もおらず、いつも通り10数名のクラスメイトが全員揃っていれば。

もう少し、気の持ちようが違っていたのかもしれないが。

クラスメイトはいつもの半数、一桁の人数である。

この人数で討論会…って言われてもなぁ。

全然話が弾まないのも無理はない。

だが、無言を貫く俺達に、高飛車系芸術教師は不満げな様子。

「どうぞ、自由に討論を始めてください」

と、焦らすように再度促してきた。

…自由に…って言われてもなぁ。

「…」

「…」

「…」

やっぱり、誰も何も言わない。

多分、皆同じことを考えていたと思う。

視界の端で、こっそり時計見上げながら。

早く終わらねぇかなこの時間、って。
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