アンハッピー・ウエディング〜後編〜
すると。

何度促しても、誰も何も喋らない…討論会らしからぬ状況に痺れを切らしたのか。

芸術教師はあろうことか、

「じゃあ、そこのあなた」

まさかの、俺を指差して指名してきた。

えっ、俺?

あまりにびっくりして、心臓、口から飛び出すかと思った。

「クラスメイトの発表を聞いていましたよね?それらの発表について、何か意見を述べてください」

おい、何だその無茶振り。

背中から、どっと冷や汗が出た。

クラスメイトが皆、同情するような目で俺を見ていた。

そ、そんないきなり…意見を述べろと言われても…。

「どうですか?何でも良いですよ。どんな意見でも」

そ、そう言われても。

何でも良いが一番困るんだよ。夕飯の献立にしても誕生日プレゼントにしても。

えーと、えーと…。意見、何か意見…。

この高飛車系芸術教師が好きそうな、いかにも討論会っぽい博識そうな意見…。

真っ白な頭を必死に働かせて、乾いた声で出てきた言葉は。

「え、えっと…。…皆、ちゃんと感想文書いてて…偉いなーと思いました…」

「…」

「…」

「…」

…ごめん。我ながら今のは、自分でも馬鹿だったなーと思った。

何を当たり前のこと言ってんの?

これには、クラスメイトも先生も呆気に取られて無言。

穴があったら入りたい、とはこの時のことを言うんだろう。

…しかし。

「…うん!だよなー自分もめっちゃそう思う!超同意!禿同!皆真面目に感想文書いてて超偉いよ。なぁ!」

盛大にスベった俺を、雛堂が必死にフォローしてくれた。
 
この時の雛堂の優しさを、俺は生涯死ぬまで忘れないよ。

ハロウィンパンでデスソース食べさせられた恨みが、一瞬で消えてなくなった。

雛堂…あんた、なんて良い奴なんだ。見直したよ。

…先生の前で「禿同!」はどうかと思うけどな。
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