アンハッピー・ウエディング〜後編〜
昨日に引き続いて、俺達はぞろぞろと歩いて新校舎に向かった。

その途中。

「調理実習かー。今日は当たりだな」

何故か、ちょっと弾んだ声の雛堂が話しかけてきた。

「何が当たりなんだよ?」

普通にハズレだろ。

何が嬉しくて、調理実習なんか。

「だって調理実習だろ?飯作るだけだろ?」

「だけ」って何だよ。食事作りを馬鹿にしたな?

全国の、俺を含む主夫と主婦の皆さんにタコ殴りにされてしまえ。

食事を作るのは楽なことではないぞ。決して。

「20キロ走れって言われた訳でも、超つまんねぇ映画観て討論会しろって言われた訳でもない。当たりじゃん」

「…まぁ、そう言われれば…そうだけど」

昨日までのアレに比べたら、確かに今日は…ちょっとはマシかな。

少なくとも、出来ないことを無理矢理やらされるということはなさそう。

そう思うと、少しは安心出来、

しかし、そこに乙無が。

「どうですかね。そう思わせておいて落とし穴…という線も、無きにしもあらずだと思いますが」

と、恐ろしいことを言い出す。

ちょ、何だよそのフラグ立て。やめろって。

「大丈夫だってー。自分らには、文化祭で大活躍だった『HoShi壱番屋』の店主様がいるんだぜ?いざとなったら頼れば良いじゃん」

おい、雛堂。それ俺のことじゃないだろうな。

俺に丸投げするつもりか。やめろよ。

俺だって、別に料理が得意な訳じゃないんだからな。ただ慣れてるってだけで。

しかも俺が作れる料理と言ったら、ザ・家庭の味みたいな、所帯染みた貧乏臭い節約手抜き料理が関の山。

学校の調理実習で活躍出来るほどでは…。

「…はっ」

「…どうしました、悠理さん」

その時、俺は思い出した。

思い出して、そして背筋が寒くなった。

調理実習と言えば…俺達は入学してから一度も調理実習なんてしてないはずなのに、何だか妙に記憶に新しいと思ったら…。

そういや一学期に…寿々花さんが、家庭科の授業で調理実習があるとかで、一悶着あったよな。

あの時、寿々花さんのクラスが調理実習で作るって言ってたメニューを思い出した。

野菜を中心とした、フレンチのフルコースだった。

あの天真爛漫系教師は、新校舎の家庭科担当教師。

ってことは、寿々花さん達にフレンチフルコースを作るという調理実習を課したのは、あの教師なのだ。

…まさか…まさか、とは思うけど。

あの天真爛漫系家庭科教師、俺達にまでフレンチのフルコースを作れ、とは言わんよな?

フレンチじゃなくても、本格イタリアンとか本格中華とか…。

「それじゃあ今から、純和風の懐石料理を作ってもらいます」とか言い出しても、不思議ではないぞ。

乙無が言ってた「落とし穴」の意味は、もしかしてこれだったのか。
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