アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「ヤバいぞ、雛堂、乙無…。俺達今から、高級レストランの料理を作らされるのかもしれない…」

「ちょ、何だよそれ。突然恐ろしいこと言い出すなって」

マジなんだよ。冗談で言ってるんじゃない。

やりかねんだろ。あの先生なら。

「だって、女子部の調理実習では、当たり前のようにフレンチフルコースを作らされたんだぞ」

「いや、そんなまさか…」

「そういえば、女子部の調理実習で作ったという料理、試食させてもらったことがありますね」

アホな雛堂と違って、乙無はちゃんと覚えていたようだ。

そう、それだよ。

あの時食べただろ?本格フレンチフルコース。

あれを、今度は俺達が作らされる…可能性がある。

ヤベーよ、あれは。

「そ…そういえば…」

雛堂も思い出したようだな。

「あれは、相当作るの大変だぞ…。レシピ見せてもらったし、試しに作ってみたこともあるけど…かかる手間が半端じゃなかった」

「ちょ、脅かすなって…!…それ、目玉焼きとインスタントラーメンしか作れない自分でも作れそう?」

「無理に決まってるだろ」

多少料理に小慣れている俺でさえ、あまりの手間と難しさに辟易したくらいなのに。

目玉焼き、インスタントラーメンレベルの料理の腕で、戦力になれるはずがない。

「他のクラスメイトもどんぐりの背比べでしょうし、だとすると、唯一の料理経験者である悠理さんの双肩に、全てが懸かっていると言っても過言ではないですね」

乙無はけろっとそう言った。

おい。俺に押し付ける前提なのやめろ。

「あのなぁ…。俺だって、フレンチだのイタリアンだのは専門外だ」

俺にとってイタリアンと言ったら、レンチンで茹でたパスタに、市販のミートソースを温めてぶっかけるだけ。

他のイタリアンなんて、ろくに作ったこともない。

俗に言う「おしゃれな料理」なんて、とてもじゃないけど作れないぞ。

「マジかよ。じゃあ調理実習って…自分ら今、思ってたよりヤバい状況なんじゃね…!?」

「…だから、さっきからそう言ってるだろ」

今気づいたのかよ。遅っ…。

余裕ぶっかましてる余裕はないんだぞ。

場合によっては、昨日の討論会よりも、一昨日のマラソン大会よりも悲惨なことになりかねない。

畜生…こんなことなら、一日中自習していたかった。

寿々花さん、早く戻ってきてくれ。

これ以上あんたらがいなかったら、俺達男子生徒が、新校舎の出張教師の犠牲になってしまう。
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