アンハッピー・ウエディング〜後編〜
大体、そんな悠長してる場合じゃないだろ。

俺達は、物見遊山の為にここに連れてこられたんじゃないんだぞ。

これからこの立派な調理室で、何をさせられるのかと戦々恐々として…。

「はい、それじゃあこちらが、今日使う食材になりまーす」

と、言って。

天真爛漫系家庭科教師は、例の巨大な冷蔵庫を開けた。

食材はちゃんと用意してくれているらしい。

…まぁ、何でも良いよ食材は。

問題は、その食材で何を作るのかという、

「それじゃあ、私は受け持ちのクラスに戻りますね。2時間ほどしたら、また様子を見に来ますから」

あろうことか。

天真爛漫系家庭科教師は、良い笑顔でそう言って、調理室から去ろうとした。

は?ちょ、いや。

…え?

「ちょ、ちょっと待ってください」

俺は、思わず去っていこうとする先生に声をかけた。

「はい?どうしました?」

どうしました、じゃねぇだろ。

それはこっちの台詞だ。

「い、いや…。俺達は、何すれば良いんですか?」

集められて、新校舎まで連れてこられて。

何をするのかと思ったら、まさかの調理室に放置とは。

意味が分かりません。

「え?何をしても良いですよ。お任せします」

…何を?

何を任せられんの?俺達は。

これには、俺だけじゃなくてクラスメイト全員が目を点にしていた。

だよな。俺達は間違ってないよな。

おかしいのは、このトチ狂った家庭科教師だよ。

「えぇっと…話が見えないんですけど…。俺達、これから調理実習をするんじゃ…」

「はい、そうですよ。冷蔵庫にある食材を使って、調理実習をしてください」

だよな?うん、それは分かってる。

あ、そうか、成程。

この先生、きっと天真爛漫系じゃなくて、お茶目系教師なんだな。

「先生、レシピを忘れてますよ」

俺達に、今日作る料理のレシピの説明をしてない。

調理室に生徒を放置して、自分は別の場所に…というのも、どうかと思うけどな。

良いのか?火も使うし包丁も使うのに。ちゃんと監督してろよ。

でも、それはまぁ良いよ。今は新校舎も教師が足りてないんだろうから。

むしろ、傍で逐一観察されるより、放置される方が楽かもしれない。

それはそれとして、レシピくらいは教えてくれなくては。

「何を作るのかについても、何も説明してもらってませんよ」

俺はてっきり、この天真爛漫系家庭科教師が。

「あっ、そうだった!テヘペロ」と言って、印刷したレシピを渡すなり。

ホワイトボードにレシピを書くなり、してくれるものと思っていた。

しかし、それは大きな間違いだった。

「レシピ…?レシピなんてありませんよ」

何を当たり前のことを、と言わんばかりに。

家庭科教師は、首を傾げた。

「…え?」

ちょ…それって、どういうこと?
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