アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「冷蔵庫に入ってる食材を使って、自由にメニューを決めて作ってください。それが今日の調理実習の課題です!」

「…」

「あ、そうだ。冷蔵庫に入ってる食材は、全種類使ってくださいね。昨日スーパーに行って、特売だった食材を手当たり次第買ってきたんです。ちゃんと栄養バランスを考えて、美味しい料理を作ってくださいねー」

「…」

「じゃ、私はこれで」

にっこりと、天真爛漫な良い笑顔で言って。

家庭科教師は、調理室に俺達を置き去りにして出ていった。

成程、ふーん。そういうことね。

レシピは無し、献立表も無し。何なら先生も無し。

あるのは、冷蔵庫の中の食材だけ。

この食材を冷蔵庫から出して、確認して。

目の前にある食材で、何が作れるのかを自分達で考えて、実際にそれを作る。

これが、俺達に課せられた調理実習ってことね。

成程、成程。へぇ、ふーん。

…なかなか新しいパターンだな。

こんな調理実習…。…アリなのか?

…アリなんだろうな。多分。

「…前代未聞ですけどね。新校舎の調理実習では、よくある課題なんでしょうか」

「あれだな。給料日前の奥さんが、冷蔵庫の余り物で晩飯のメニュー決めるみたいな感じ?」

雛堂、それだ。上手いこと言うな。あんた。

俺もあるよ。買い物行くのが面倒な時とか、買い物に行く時間がない時とか。

冷蔵庫を開けて、残り物でメニューを考えること。

この課題も、やってることはそれと同じだな。

分かる分かる。レシピ通りに作るのも大切だけどさ。

目の前にある食材で、何が作れるのかを工夫して考えるのも、料理作りには大切なスキルだよな。

きっと、そういう「考える力」を伸ばす為に。

あの教師は、俺達にこのような課題を出したんだろうな。

なんて有り難い。素晴らしい課題だな。ははは。

…はぁ…。

…無責任、の間違いじゃね?

レシピさえあれば、その通りに作るだけで済んだのに。

まさか、メニューを決めるところから自分達でやらされるとは思わなかった。

マラソン大会にせよ、昨日の討論会にせよ…新校舎からの出張教師が俺達に出す課題は、どれもこれも予想の斜め上過ぎるな。
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