アンハッピー・ウエディング〜後編〜
いかにも面倒臭そうな課題に、俺達は揃って溜め息をつきたい気分だったが。

残念ながら、溜め息をついている時間の余裕はない。

何を作るにせよ、早く決めて早く動かなければ。

料理してたら、二時間なんてあっという間だからな。

「…逆に考えよう。面倒なレシピを押し付けられたんじゃないんだから」

そう。前向きに解釈しようぜ。

好きにメニューを決めて良いってことは、いくらでも手抜きして良いってことじゃないか。

作るのが簡単なメニューだけを選ぼう。

「まずは、冷蔵庫に入ってる食材を確認して…」

それらを見て、一番簡単に出来そうなメニューを考え、

「うわっ…。何だ?これ…」

「こんなの、見たことない…」

クラスメイト達が、冷蔵庫の中を覗いて何やら呟いていた。

…何?

「どうした?…何が入ってるんだ?」

「…これ…」

と言って、恐る恐る、クラスメイトは冷蔵庫に入っていた食材を取り出した。

野菜室から野菜を、冷蔵室から肉類と缶詰めを。

最低限の調味料、塩や砂糖や醤油、みりんなども冷蔵庫に入っていた。

これは、自由に使って良いってことだよな?

あとは、野菜や果物、それからメインになる肉類や魚類を…。

確認して、献立を決めよう…と、思ったのだが。

「…何これ?」

「…さぁ…」

多少料理には慣れている、と自負している俺でさえ。

冷蔵庫に入っていた食材を前に、首を傾げるしかなかった。

…マジで何なの?これ。

…普通、冷蔵庫の余り物ってさ。

半分だけの人参とか、中途半端に残った玉ねぎとか。

買ったまま使わなかった豆腐とか、卵が数個とか…。冷凍していたひき肉がちょっと、とか。

冷蔵庫の余り物って、そういうものだと思ってた。

いや、今回のは別に余り物ではないんだけどさ。

しかし、目の前にあるこの食材は何なんだ?

こんなの、スーパーで売ってるところさえ見たことないぞ。

「…雛堂、乙無。予想外のことが起こり過ぎて、俺の脳みそはパンク寸前だよ。俺の代わりにこの状況を説明してくれ」

「大丈夫だ、悠理兄さん。自分もパンクしてっから」

「そうか」

俺も雛堂も、脳みその容量が猫の額くらいしかないのかもしれない。

違う。俺と雛堂の脳みそが矮小なんじゃなくて、この状況そのものがおかしいんだって。

その証拠に、俺達だけじゃなくてクラスメイトも皆ポカンとしているし。

俺達の中で、唯一平然としているのはこの男。

「やれやれ。この程度のことで思考停止とは…つくづく情けない生き物ですね、人間というのは。やはり人類には、偉大なる邪神イングレア様による救済が必要なのでしょう」

自称、邪神の眷属である乙無だけである。

相変わらず、あんただけは肝が据わってるって言うか…。ブレないよなぁ…。

今だけは、それがとてつもなく有り難いよ。
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