アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「乙無、何とかしてくれ」

「何とか、と言われましてもね…。…それにしても、ユニークな食材が揃ってますね」

冷蔵庫の中を見て、乙無がそう言った。

…ちゃんと食材なのか?これ。

「俺には、かろうじてこれが紫キャベツだということしか分からん」

冷蔵庫の中、色んな食材が入ってるけど。

俺に分かるのは、この紫キャベツだけだ。

その他の食材は、何なのかさっぱり分からない。

「…あとは…異界の食材か何か?」

「…ちゃんと人間界の食材だと思いますよ。勝手に異世界転生しないでください」

そうか…。ちゃんとこの世の食べ物なのか。

そうとは思えないって言うか…。

「実際、これ何なんだ…?…雑草?山菜?」

「これはクレソンですね」

クレソンだってよ。いかにもお洒落そうな野菜。

しかし、見た目はただの雑草にしか見えないのは、俺が貧乏性なせいだろうな。

俺、これ多分道端に生えてたとしても、気づかずに通り過ぎると思うわ。

「そっちの草は?…なんか春菊っぽい見た目だけど…春菊じゃないよな」

「違いますよ。これは…ルッコラですね」

ルッコラだってよ。これまたお洒落な野菜。

ルッコラなんて、しりとりで「る」が来た時以外、耳にする機会はないと思っていた。

これが実物なのか…。…野草って感じだな…。

「じゃあ、こっちの…玉ねぎとらっきょうを足して二で割ったような野菜は?」

「エシャロットですね」

エシャロットだってよ。何だそれ。

らっきょうの亜種にしか見えないんだが、漬け物以外でどうやって食べれば良いんだ。

こんなの、近所のスーパーの野菜コーナーには売ってないぞ。

何処の国の野菜?

「こっちは?この熟れてないプチトマトみたいなのは?」

「熟れてないいないのではなく、スノーホワイトという品種の、白いプチトマトですね」

「このブツブツしたキモい食虫植物みたいなのは?」

「ロマネスコでしょうね。イタリア原産の野菜で、カリフラワーの仲間です」

「この、いかにもその辺で取ってきたみたいな草は?」

「ハーブの一種で、フェンネルと言います。葉っぱも根元の部分も食べられますよ」

…だってよ。

へぇー。勉強になるなー。

世の中には、まだまだ俺の知らない野菜がたくさんあるんだなーって。

それにしても乙無は、よくこんなにたくさんの野菜を知ってるな。

商品名も書いてないのに、見ただけで分かるって凄くね?

野菜博士かよ。

一見、ただの雑草か、ともすれば毒草にも見えるのだが。

食べたことないから、どんな味なのか分かんねぇけど、勝手なイメージで何だかどれも苦そうな気がする。
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