アンハッピー・ウエディング〜後編〜
冷蔵庫から出てくるのは、見覚えのないお洒落な横文字の野菜ばかり。

しかも、それだけではない。

冷蔵庫には、野菜の他にも色々な食材が入っていた。

「普通の食材はないのか?普通の…。おっ、あれ、パンじゃね?」

冷蔵庫を漁っていた雛堂が、パンらしきものを発見。

おぉ。パンなら良いじゃん。やっと普通の食材が来た。

しかし、パンはパンでも…。

「うぇっ、何だこれ…。黒い…パン?」

雛堂が取り出したのは、大きな黒い塊。

え?それパンなのか?

…黒糖パン?

「ライ麦パンですね。普通のパンよりも硬くて、酸味が強いパンです」

野菜博士乙無は、パンにも詳しかった。

何でわざわざライ麦パンなんだよ。普通の食パンとかで良いじゃん。

いかにも硬そうなパンなんだけど、それってそのまま食べれんの?バターとかつけて?

更に。

「おっ、肉だ!悠理兄さん、かろうじて肉は普通っぽいぜ」

と言って、雛堂は冷蔵庫の奥から、ビニールに包まれた生肉の塊を取り出した。

本当だ。良かった、これでメインディッシュだけはまともな、

…まともな…?

雛堂から肉の塊を手渡されたが、何だか違和感がある。

豚肉…?じゃないよな。牛肉…っぽいような気もするが、違う気がする。

試しに顔を近づけて、匂いを嗅いでみて。

そして、安易に匂いを嗅いだことを猛烈に後悔した。

「何だこれ。獣くさっ…!」

「え、マジ?自分もちょっと…。うわ、臭っ!」

恐れ知らずの雛堂も、肉の匂いを嗅いで俺と同じく顔をしかめていた。

腐ってる匂いじゃなくて、とにかく獣臭い。

野生動物みたいな匂いがする。上手く言えないけど。

「犬?何?この肉。犬!?」

と、雛堂が喚いていた。

犬って何?犬肉ってこと?

それはいくらなんでも無理。

「どれ…。…ふむ、犬ではないですね」

この場で誰よりも食材に詳しい乙無が、肉の匂いを嗅いでからそう言った。

マジ?匂いだけでそんなことも分かんの?

こんなに匂いのキツい肉と言えば…。

「羊…?これ、ラム肉って奴?」

ジンギスカンか?ジンギスカンをやるのか。

ここ、北海道じゃないぞ。

しかし、乙無曰く。

「いえ、これは羊ではなく…多分ヤギですね」

まさかのヤギ肉。

マジで?嘘だろ?

「ヤギって…食べれんの?」

聞いたことないし、売ってるのを見たこともないぞ。

勝手に捕まえてきたヤギを捌いたんじゃないだろうな。

「食べられますよ。海外では割と一般的です」

「…マジかよ…」

頭の中で、草を食む愛くるしいヤギの姿を思い浮かべる。

あのヤギさんを肉にして食べようとは…。人間ってのは残酷な生き物だな。

いや、豚や牛なら良いって訳じゃないけど…。

シカやイノシシなら聞いたことがあるが、ヤギを食べるという発想は、俺にはなかった。
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