アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…結果。

冷蔵庫から出てきた食材を、一つずつテーブルに並べたところ。

紫キャベツ、クレソン、ルッコラ、エシャロット、スノーホワイトとかいう白いプチトマト。

硬そうなライ麦パン、生のヤギ肉とゴルゴンゾーラチーズ。

ムール貝の缶詰めと、瓶詰めのカルチョーフィ(乙無曰く、アーティチョークという野菜をオイルとスパイスに漬けたものらしい)。

それから、雛堂に「エイリアン」と言わしめた、乾燥させたモレルマッシュルーム…。

ついでに、申し訳程度にシャインマスカットが入ってたよ。

あとは調味料が何種類か…。

以上、冷蔵庫に入っていた食材の全てである。

…だってよ。

もう考えるのも面倒臭いし、皆でシャインマスカットだけ食べてさ。

それで調理実習終わり、ってことで良いんじゃね?

いくら、料理に小慣れている俺でも。

さすがに、このお洒落(笑)な食材で、何を作れば良いのか…検討もつかないよ。

多分、雛堂も同じ気持ちだったのだろう。

「…どうすりゃ良いんだ?これ」

と、困り顔で俺に聞いてきた。

「…俺に聞くな…」

俺だって聞きてぇよ。どうすりゃ良いんだ、この食材。

どうやって食べれば良いんだ…?調理方法が全く思い浮かばない。

まともな食材が一個もないんだもん。

いや、ルッコラやムール貝だって、立派な食材だとは思うけどさ。

この食材の中で、貧乏主夫の俺に扱えるのは…精々紫キャベツくらいだよ。

何で普通のキャベツじゃないんだ?意味分かんねぇよ。

イタリアンかフレンチのシェフを連れてこい。その方が、食材が無駄にならなくて済む。

「いっそ、全部まとめて土鍋にぶち込んで、闇鍋ってことで良いんじゃねぇの?」

おいおい、何を馬鹿なことを。と…普段の俺ならそう思っただろうが。

雛堂の顔は至極真面目だし、俺も真面目に頷いた。

もう、それしかないんじゃないかな。

下手に調理しても、絶対美味しいものにはならないだろうし。

いっそ闇鍋にした方が良いんじゃないか。

他のクラスメイトも真面目な顔つきだったので、このままだとマジで闇鍋になりそう。

しかし、問題は。

「あの教師が、それを許してくれれば良いんだが…」

忘れるな。臨時の授業とはいえ、これはれっきとした調理実習課題。

食材全部、ぶつ切りにして土鍋に突っ込んで闇鍋…なんて。

あの家庭科教師が見たら、発狂モノだろう。

知るかよそんなこと。なぁ?

発狂するくらいなら、もっとまともな食材を買ってこいっての。

え?紫キャベツやライ麦パンはまともじゃないのかって?

まともじゃねーよ、今だけは。畜生。
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