アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…その日の夜。

非常にどうでも良い情報で申し訳ないが、今日の晩飯はピザである。

調理実習でもピザ食べたのに、夜もピザ食べるのかよ、って?

口直しのつもりだよ。

調理実習でトンデモピザを食べたもんだから、普通のピザの味が恋しくなって、つい。

かと言って、宅配ピザではないぞ。

頼もうかと思ったんだよ。最初は。

宅配ピザって、結構お高いじゃん?俺みたいな貧乏人にとっては、回転寿司並みにご馳走でさ。

「よーし!今日は良いことあったから、奮発して頼んじゃおうかな!」みたいな扱い。

でもさ、よくよく考えたら、今は家に一人しかいないんだから。

一人分のピザを、わざわざ宅配で持ってきてもらうって勿体ないじゃん?

寿々花さんがいたら、迷うことなく宅配ピザを頼んでたと思うけど。

寿々花さんもいないのに、自分の為だけにピザ頼むのもなーって思って。

結局、スーパーの冷凍コーナーで冷凍のピザ生地を買ってきて。

その生地に市販のピザソースを塗って、ベーコンとピーマンと玉ねぎを乗せて。

せめてもの贅沢に、これでもかとピザ用チーズを乗せて、オーブンで焼いて作った。

めっちゃ美味い。

宅配ピザほどの高級感はないけど、充分めっちゃ美味い。涙出そう。

やっぱりこれだよ、これ。昼間調理実習で食べたアレは何だったのか。

ピザの顔をした紛い物でしかなかった。

まともなピザの味を噛み締めるように、お手軽おうちピザを楽しんでいたところに。

突然、自宅の電話が鳴り響いた。

びっくりして、思わず食べかけのピザを皿に落っことすところだった。

…誰だよ。今良いところなのに。

これでもしセールスとかだったら、さすがに怒るからな。

ふきんで手を拭いてから、俺は家電(いえでん)の受話器を手に取った。

「はい?もしもし?」

『もしもし。悠理くーん。私だよー』

こ、この呑気な声は。

食べかけのピザを邪魔された苛立ちなど、一瞬にして空の彼方に吹き飛んでいった。
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