アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「す…寿々花さん、か?」

この間の抜けた呑気な声は、間違いない。

またしても、イタリアからの国際電話である。

…しかし。

『…あれ?もしもし。もしもーし。ぷろんとー』

向こうに音声が届いていないのか、寿々花さんは必死に呼びかけ続けていた。

…ぷろんとって何?もしもしみたいな意味?

『おかしいな。悠理君が出ない…。この時間なら家にいるかなーと思ったのに。家出かな…?』

家出じゃない、家出じゃないって。

何で家主がいないのに家出をするんだよ。

あと、電話出てるって。繋がってる、ちゃんと通じてるよ。

「もしもし、寿々花さん?ちゃんと繋がってるよ」

『おかしいなー。悠理君、今忙しいのかな…。…はっ。もしかして、私とはお喋りしたくないってこと…?』

「ちょ、違う、馬鹿。そんな訳ないだろ!」

『…そっかー…。寂しいなー…』

電話の向こうで、しょぼーんとしている寿々花さんの顔が目に浮かび。

このポンコツ電話、ぶっ叩いてやろうかと思った。

「通じてるから。今ちゃんと聞こえてるから!」

『旅行のお土産に、パスタソースとカルチョーフィ、どっちが良いか聞こうと思ったのになー』

「またそれかよ!パスタソース!頼むからパスタソースにしてくれ!」

流行ってんのかカルチョーフィ。なぁ?

もう良いって、イタリアの食材は。俺には扱えない。

いや、俺の料理の腕が足りてないせいなんだけども。

それより電話。このポンコツ電話、いい加減一方通行じゃなくて、俺の声も向こうに届けてくれよ。

『あっ、もしかして私、また違うところにお電話しちゃったのかな?』

「合ってる。ちゃんと合ってるよ、大丈夫だから!」

『寂しかったから、悠理君の声が聞きたかったのになー…。駄目だったのかー』

「こんの、ポンコツ電話!いい加減つ、う、じ、ろ、っての!」

腹立ち紛れに、電話機の本体をベシッ、とぶっ叩いた。

すると。

『…あれ?今悠理君の声が聞こえたような…?』

「え、まさか今ので直ったのか?」

『あ、悠理君の声だ。やったー、通じた』

壊れた家電、叩けば直る理論。

あれはあながち、都市伝説ではなかったらしい。
< 313 / 645 >

この作品をシェア

pagetop