アンハッピー・ウエディング〜後編〜
最近多いよな。セミセルフレジ…。

商品のスキャンまでは店員さんがやってくれるけど、お会計は客が自分で機械を使って払うっていう、あの形態な。

中には完全セルフの店もあるよな。バーコードかざすのも、袋詰めも、全部自分でやるレジ。

そうだった。ここのスーパーのレジ、お会計は自分でやらなきゃいけないんだった。

対面で、店員さんと現金のやり取りをする前提で訓練してしまった。

寿々花さんには、セミセルフレジのお金の払い方が分かるのだろうか?

ヤバいぞ。ここに来て今日一番のピンチ。

「…?…??」

案の定、首を傾げている寿々花お嬢さん。

あぁ、なんかもう、見てられない。

しかもこんなときに限って、レジに行列が出来ている。

さっさと済ませないと、会計機が空かなくて待たされるパターン。

後ろからプレッシャーかかるよな、あれ。

「やべぇ、俺の見通しが甘かったばかりに、寿々花さんが…」

「あぁ、何だ。奥さんのストーカーしてたんですか」

「どうしよう、乙無。うちの箱入りお嬢さん、会計機の使い方が分からないみたいだ」

やっぱり、ここは俺が駆けつけて手助けするべきか?

でもそんなことしたら、俺が後をつけてたことがバレる。

すると。

「仕方ありませんね。僕がお手伝いしましょう」

ここに、救世主乙無が誕生。

「乙無…。俺、今初めてあんたの存在に感謝してるよ…」

「今、初めてですか…?今までは何だと思ってたんですか…?」

ただの中二病拗らせだと思ってた。ごめん。

間違ってはないんだろうけど、今ばかりは乙無がいてくれて良かったと思うよ。

「じゃ、行って来ます」

「あぁ、頼む」

寿々花さんを何とかしてやってくれ。

くれぐれも、偶然通りかかった風で頼むぞ。

「こんにちは、寿々花さん。奇遇ですね」

「…?…あ、神様の眷属の人だ」

乙無が声をかけると、寿々花さんはそう答えた。

…そういう覚え方してんの?

「お買い物ですか?」

「うん、お使いなの。私の夏休みの宿題なんだよ。悠理君に頼まれて、カレーの材料買いに来たんだー」

「…」

買ったばかりの商品が入ったかごを、おもむろに見下ろす乙無。

そして一言。

「…闇鍋カレーでも作るんですかね…?」

…言い返す言葉もないが。

これでも大真面目なんだよ、寿々花さんは。大目に見てやってくれ。

「それはともかく…何かお困りですか?」

「大丈夫だよ。あのね、ちゃんとお金払う練習いっぱいしてきたから。お札が、一枚、二枚…」

くまちゃんのがま口財布を開いて、お札を数える寿々花さん。

頑張れ。

「よし、数えた。このお札を…何処に置いたら良いの?」

置くんじゃない、入れるんだよ。お札投入口、って書いてあるだろ。

そこに突っ込めば、自動で計算してくれるんだよ。

「これはセルフレジなので、自動販売機みたいに自分でお金を払うんですよ」

と、乙無が教えてやっていた。

「ここにお札、ここに小銭を入れてください」

「ほぇ~。凄い。はいてくのろーじだね」

ハイテクノロジー、な。

ともあれ、乙無のお陰で無事にお会計を乗り越えられそうで、良かった。

乙無に足を向けて寝られないよ。
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