アンハッピー・ウエディング〜後編〜
乙無に手伝ってもらいながらも、お金を払って買い物を済ませる寿々花さんを見届けて。

俺は、大急ぎで先回りして、家に帰った。

後をつけてたことがバレないように、自然に振る舞わなくては。

猛ダッシュで帰宅して、汗を拭きながら息を整えていると。

「ただいまー」

お使いを済ませた寿々花お嬢さんが、無事に帰宅した。

よし、戻ってきたようだな。

「ふー。お使い頑張ったよ、悠理君。ただいまー」

「おぉ…。お帰り…」

「…?何だか悠理君、汗だくだね。どうしたの?」

炎天下の中、スーパーから全力ダッシュで帰ってきたからな。

「大丈夫だ…。ちょっとその…。暑かっただけだよ」

「そっかー」

幸い、それ以上は深く追及されずに済んだ。

寿々花さんがアホの子で良かった。

…それよりも。

「お使いは?ちゃんと出来たか?」

「うん!頑張ったよー」

知ってる。

後ろから見てたからな。

「悠理君にもらったメモをなくしちゃって、どうしよーって思ったけど、でも悠理君に言われたことを思い出して、カレーの材料買ってきたんだよ」

そうか。偉いな。

努力は認めるよ。…その努力だけはな。

「あとね、お会計のとき、いつも悠理君と練習してるのとは違って、機械にお金を払わなきゃいけなくて」

「あ、あぁ…あそこのスーパー、セミセルフレジだっけ?」

「やり方分からなくて困ってたら、悠理君のお友達のね、神様の眷属の人が教えてくれたんだー」

それも知ってる。

俺が乙無に頼んだようなものだからな。

「そうか…。まぁ、何だ。無事に帰ってきてくれて良かったよ」

「あ、そうだ。お釣りとレシート返すね」

と言って、寿々花さんはくまちゃんがま口財布を開け、レシートを取り出そう…としたら。

財布の中から、小さな紙がひらひらと床に落ちた。

何かと思ったら。

「あ、メモ出てきた」

…俺の書いた買い物メモ、なくしたと思っていたメモが出てきた。

あんた、そんなところに入れてたのか…。

今更出てきたところで。

「こんなところにあったんだー。もうちょっと早く見つけたら良かったんだけど」

「そうだな…」

買い物中に見つけてくれてたらな。乙無に闇鍋カレーとは言われなかっただろうに。

仕方ない。過ぎたことを言っても仕方ない。

「悠理君、私頑張ったよ、お使い。夏休みの宿題、ちゃんと終わらせた」

褒めて褒めて、と言わんばかりにキラキラと目を輝かせる寿々花お嬢さん。

まるで、飼い主に尻尾を振る子犬のよう。

俺より年上のはずなんだけどなぁ…。全く。

そんな顔して見られたら、文句の一つも言えなくなるじゃないか。なぁ?

「あぁ。よく頑張ったな、偉い偉い」

「えへへ」

頭を撫でて褒めてやると、寿々花さんはそれはもう、満面の笑みであった。

…ま、いっか。全部結果オーライってことで。
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