アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「はい、お待ちどおさま」

俺はキッチンから、大きなケーキ皿に乗せたハロウィンケーキを運んできた。

まだほんのり温かい、焼き立てのケーキである。

「おぉー!めっちゃ美味そう!」

「色合いも良いですね。ハロウィンらしくて」

これには、雛堂と乙無も絶賛。

だろ?…って言っても、学校の図書室で借りた、例のハロウィンレシピの本を見ながら作ったものであって。

俺のオリジナルレシピではないんだけどな。

「これって何ケーキ?チーズケーキ?」

「あぁ。かぼちゃのチーズケーキだ」

「すっげ!」

いかにもハロウィンっぽいだろう?

底に砕いたココア生地のクッキーを敷き、たっぷりのかぼちゃペーストを混ぜたチーズクリームを乗せてオーブンで焼き。

トッピングにキャラメルソースをかけ、パンプキンシードを散らした、ベイクドパンプキンチーズケーキである。

自分で言うのも何だけど、結構力作。

「凄いでしょ?悠理君はとっても料理が上手なんだよ。どんな食材でも、魔法みたいに美味しいご飯にしてくれるんだー」

何故か、俺以上に寿々花さんがドヤ顔だった。

「イタリアで食べたレストランの料理より、悠理君のオムライスの方がずっと美味しいんだから」

話を盛るな、話を。

「へぇー、ふーん?相変わらず仲良しで羨ましいことじゃないの。え?」

にやにや、とこちらを見る雛堂。

こいつ…。フォークぶっ刺してやろうか。

と思ったけど、寿々花さんがケーキを楽しみにしてるから、そっちが優先。

「…良いから、切り分けるぞ」

「おっきいのが良い。悠理君、私おっきいの食べるー」

「はいはい、分かったから」

俺はチーズケーキを切り分けて、それぞれ取り皿に乗せ。

寿々花さんに、雛堂に、乙無にそれぞれ渡した。

あと、自分の分もな。

「はぐ。もぐもぐ…」

ケーキにフォークを入れて、寿々花さんは豪快にぱくついていた。

「…どうだ?」

自分では力作だと思ってるけど、味がいまいちだったら台無しである。

普通の料理と違って、ケーキは味見が出来ないからな。

完成して食べてみる瞬間まで、どんな仕上がりか分からない。

「むぐむぐ。…もぐもぐ」

口いっぱいにチーズケーキを頬張った寿々花さんは、返事をする代わりに、親指をぐっと立てた。

お嬢様とは思えないくらい、お行儀が悪い。けど。 

その顔を見れば分かる。どんな言葉より分かりやすい。

「うっま!めっちゃ美味いぞ、これ」

「さすがですね、悠理さん。見た目だけじゃなく、味も素晴らしいですよ」

「そりゃどうも」

雛堂と乙無からも、称賛の言葉をもらった。

良かった。美味しかったようで。

自分でも食べてみたけど、成程、確かに。

これはさすがに、自画自賛したくなる出来。

「やっぱりすげーな、悠理兄さんって」

「あ?」

「女装も上手くて料理も上手いなんて、女子より女子力が高、」

「あー、はいはい。黙って食えよ」

一言余計なんだよ。
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