アンハッピー・ウエディング〜後編〜
嘘だろ。ずっと観ないようにしていたのに。

ここに来て、こういう仕打ちをする?

「ちょ、寿々花さん待つんだ。早まるな」

「折角のハロウィンパーティーだから…うんと怖いのにしよーっと」

「やめろって!」

うんと怖いの、って何だよ。

「何だよ、悠理兄さん。可愛い格好してビビってんのか?」

可愛い格好をさせたのはあんただろうが。ふざけんな。

「そ、そうじゃなくて…」

「ゲーム以外なら何でも、と自分の口で仰ったのだから、自分の発言の責任は取るべきなのでは?」

ぐ、ぐぬぬ。

乙無が正論過ぎて、何も言い返せない。

「大丈夫だよ、悠理君」

早速、テレビ台の下のラックから、選りすぐりのホラー映画DVDを取り出しながら。

寿々花さんが、こちらを見て自信満々にそう言った。

「…何が大丈夫なんだよ?」

「怖かったら、キャーこわーい、って甘えてくれて良いよ」

それ、どういうシチュエーション?

そうはならんだろ。

「今の悠理君は、可愛い赤ずきんちゃんだから。ドラキュラの私が守ってあげる」

「…そりゃどうも…」

ドラキュラに守られる赤ずきんって、一体。

…立場逆じゃね?なぁ。どう考えても。男が守らなくてどうするんだよ。

「ほらほら、女の子にここまで言われちゃ、情けないところは見せられねぇよなぁ?」

にやにや、とこちらを見る雛堂。

こ、この性悪ミイラ男。

頭の包帯、引っ張ってやろうか。 

こうなったら、少しでも怖くないホラー映画を選んでもらうしかない。

「寿々花さん、怖くないのを頼むぞ。少しでも怖くないのを、」

「よし。じゃあ…この、テレビの中から出てくるのにしよーっと」

「それめっちゃヤバい奴!」

数あるホラー映画の中でも、特にヤバいものを選びやがった。

「おっ、なかなか定番どころだね。自分も観たことあるよ、アレ」

「テレビ?テレビから何か出てくるんですか?」

某ホラー映画を知らないらしい乙無である。

まぁ観ててみろよ。とんでもないものが出てくるから。

畜生…どうすれば良いんだ?あんなもの観させられた暁には、また俺のホラー映画トラウマが増えることに…。

「…じゃあ、俺は先に片付けに、」

かくなる上は、リビングから逃げるしかない。

三十六計逃げるに如かず。

しかし。

「おぉっと。まさか無月院の姉さんを置いて、一人だけ逃げようってんじゃないよなぁ?そこの赤ずきんちゃん」

「くっ…!」

逃げる前に、雛堂に捕まった。

やめろ。その手を離せ。

あと、赤ずきんって呼ぶな。

再生が始まってしまったら逃げられなくなる。そうなる前に何とか、

「寿々花さん、早まるな。ちょっと待っ…」

「ぽちっ」

「あぁっ…!」

止めようとしたが、時既に遅し。

俺が止める前に、寿々花さんは再生ボタンを押してしまっていた。

ようこそ。ハロウィンの夜のホラー映画鑑賞会に。
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