アンハッピー・ウエディング〜後編〜
今日うちに届いた荷物の一つは、俺宛ての干し柿だった。

そして、もう一つの荷物の中身を知ったのは、風呂から上がった直後だった。


 

「ふー、さっぱりし、」

「ねぇねぇ、悠理君」

「うわっ、びっくりした」

タオルで頭を拭きながら、リビングに戻るなり。

寿々花さんが目の前に、ぐいっと迫ってきた。

ど、どうした。

「な、何だよ?」

「…」

寿々花さんはじー、っと俺の顔を見つめた。

超近距離で。

「ちょ…本当に何だよ?」

「くんくん…。悠理君、良い匂いがするー」

嗅ぐな。犬かよあんたは。

「ただの…ボディソープの匂いだよ…」

「ボディソープ…?悠理君こだわりの、お気に入りのボディソープの香り?」

「別に。ドラッグストアで安売りされてた大容量のボディソープだけど」

せっけんの香り、だったかな。

俺はシャンプーとかボディソープとか、全然こだわりのない人間だから。

ブランドもメーカーも何でも良い。買いに行った時、安売りされてるものを選ぶ。

最近は男性でも、シャンプーやボディソープにこだわりのある人が増えてるらしいけど。

俺はそういうのは良いや。違いが分からないから。

寿々花さんこそ、そういうのこだわるべきなのでは…?

…って、そんなことより。

「くんくん。やっぱり良い匂いだー」

「嗅ぐなって。何なんだよあんたは。ちょっと離れろ」

「あれー」

あれー、じゃないんだよ。

俺は、ぐいっと寿々花さんから距離を取った。

はぁ。びっくりした…風呂入ったばかりなのに、余計な汗をかいたような気がする。

「で?何か用か?」

「もっと悠理君とくっついてたかったな…」

「は?今なんか言った?」

寿々花さんがぼそっと呟いたようだが、よく聞こえなかった。

「ううん。それより…リビングにあれ置いても良いかって、悠理君に聞こうと思ったの」

と、寿々花さんはリビングのサイドテーブルを指差した。

は?あれ?

寿々花さんの指差す先を見ると、見覚えのないものが置かれていた。 

何だ?…あれ。箱型の…カレンダー?

「カレンダーか…?なかなかお洒落だな」

別に良いよ、カレンダーくらい。好きなところに置いてくれ。

大体、ここはあんたの家なんだから、家主であるあんたが好きなところに、好きなものを置けば良いんだ。

いちいち俺の許可など取らなくても。

…それにしても、カレンダーとは…。

「置くのは良いけど…。今年、あと一月で終わるのに、今更カレンダー…?」

あ、それともあれ、もう来年のカレンダーなのか?

それにしては、ちょっと気が早いのでは?

「ううん。あれは12月だけの…アドベンドカレンダーなんだよ」

と、寿々花さんが説明してくれた。

アドベンドカレンダー…?

…なんか、どっかで聞いたことあるな。
< 353 / 645 >

この作品をシェア

pagetop