アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「サンタさんは『良い子』のところに来るって言うでしょう?でも私のところには一度も来なかったから…」

「それは…」

「私が『良い子』じゃないから…私が『悪い子』だから来てくれないのかなって…ずっと、そう思ってて」

そんな馬鹿な話があるかよ。

良い子とか悪い子とか関係ない。

「あんたは悪い子なんかじゃないだろ。何処が悪いって言うんだ?」

「ううん…大丈夫、分かってる…。私が良い子だろうと…悪い子だろうと、サンタクロースなんて、私の家には来ないんだよ」

「…」

「今ならそのことが分かる…から、もう何とも思わないけど…。…ちっちゃい頃は辛かったな。冬が近づいたら、今年こそはって…お行儀よく振る舞ったつもりだけど、やっぱりサンタさんは来てくれなくて…」

「…」

「馬鹿みたいだよね。良い子の子供達のところに、無償でプレゼントを届けに来る優しい人なんて…何処にもいるはずないのに。…もっと早く気づけば良かった」

「…」

「…あ、ごめん…」

…さっきまで、アドベンドカレンダーを開けてはしゃいでいたのが嘘のよう。

お通夜みたいに、空気がめちゃくちゃ重くなってしまっていた。

寿々花さんは慌てて謝って、そして。

「もう良いんだよ。今は…もう、何とも思ってないし…」

「…」

「それに、今年こうやって初めて、悠理君と一緒に毎日アドベンドカレンダーを開けて…凄く楽しいから。12月がこんなに楽しいの、初めてだよ」

寿々花さんは、にこっと笑ってそう言った。

その笑顔が、いつもより曇っているように…。

…無理しているように見えたのは、俺の考え過ぎだろうか。

いや、そんなはずはない。

「…寿々花さん」

我ながら、自分の声の低さにびっくりした。

「なぁに…?」

「…クリスマス…何かして欲しいことあるか?」

「…えっ」

こんな話を聞かされたら。

「へぇそうなんだー、大変だったね」で済ませる訳にはいかない。

くそったれな、役立たずの無月院本家の大人達に代わって。

俺が、寿々花さんに相応しい…楽しいクリスマスを企画しよう。

それが俺に出来ることだ。そうだろ?

今更俺が何をやったって、これまで毎年、惨めなクリスマスを過ごしてきた寿々花さんの辛い気持ちが、少しでも満たされる訳じゃないだろうけど。

それでも、これまでのことは変えられなくても、これからを変えることなら出来る。

毎年12月になる度に、惨めだったクリスマスの思い出を思い出して、憂鬱な気持ちになるよりは。

せめて少しでも、クリスマスに楽しい思い出を作れば。

そうすれば…毎年クリスマスになる度に、辛い思いをしなくて済むだろう?
< 358 / 645 >

この作品をシェア

pagetop