アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…いや、でも。

油断するのはまだ早い…か?

「…クリスマスツリーって、どんなの?この部屋の天井を突き抜けるようなでっかい奴か?」

それこそ、デパートのエントランスホールに置いてありそうな、巨大なクリスマスツリーのことか?

あれを欲しがってるのか。確かにあれは大変そうだな。

何処で注文すれば良いのか。つーか、何処に置けば良いのか。

しかし。

「ふぇ?ううん…。そんなに大きいのじゃなくて、自分で、おうちで飾り付けられるくらいの…」

…やっぱり、家庭用クリスマスツリーのことか。

このシーズンになると、雑貨屋さんやホームセンターで売っているアレ。

「てっぺんに星を飾ってね、キラキラって光るの…。あれがおうちにあったら良いなぁって…」

光り物好きだもんな、寿々花さんは。

にしても、くすぐられて観念して、満を持して打ち明けた「我儘」が、クリスマスツリーとは…。

「…駄目かな?やっぱり難しい?」

俺が呆れているのを、拒絶の意だと勘違いしたらしい。

「ちげーよ。逆だ、逆」

「逆…?」

簡単過ぎて拍子抜けしたってこと。

もっと難しい注文をしてくれても良かったんだぞ。

まぁ、でも…良いか。 

これまでずっと、我儘の一つも言えなかった…言わせてもらえなかった寿々花さんが。

今こうして、初めて自分の要求を口にしたのだから。

ようやく…人並みに甘えさせてもらえるようになったのだから。

それだけでも、大きな進歩だと思わないか?

「分かった。クリスマスツリーだな」

「…大丈夫?何とか出来そう?」

このお嬢様は、クリスマスツリーがそこら辺のホームセンターに売ってるってことを知らないのか。

まるで、何処ぞの高級ブランド店の限定生産アクセサリーでも注文したかのような。

超有名三つ星レストランのクリスマスディナーでもねだるかのような頼み方だが。

ただのクリスマスツリーだからな。頼んできたのは。

これまで、どれだけ寂しい思いをしてきたら、高校生になって初めてクリスマスツリーを欲しがるんだ。

無月院本家の大人達には、何度腹立たしい思いをさせられたか分からないが。

今回はまた、特別ムカつくな。

「ごめんね、悠理君。我儘で…」

「ツリーくらいで我儘なもんかよ。遠慮するな」

早速今度、クリスマスツリー買ってくるよ。

…折角だから、良い奴買ってこよう。

幸い、この家は無駄に広いからな。

収納スペースがないとか、置く場所がないとか、そういうクリスマスツリーあるあるみたいな問題は、考える必要はない。

寿々花さんが喜びそうなクリスマスツリーを買ってくるとしよう。
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