アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「お…思ってることがあるなら言ってくれよ?」

やっぱり白いツリーの方が良かった、とか。

もっと大きい(or小さい)ツリーが良かった、とか。

電飾の数が足りないとか、色が気に入らない、とか。

もう一回買い直してくるからさ。

買い直す手間なんて、寿々花さんに泣かれることに比べたら、何でもない。

「気に入らなかったか…?」

「…ふぇ?ううん。そんなことないよ」

「本当か?遠慮するなよ。思ってることがあるなら…」

「ううん、違うの…。ツリー、綺麗だなぁって思って」

…は?

寿々花さんは、しみじみとクリスマスツリーを見つめていた。

「こんなに綺麗なもの、初めて見た。悠理君と一緒に飾り付けして、楽しくて、それに綺麗で…。クリスマスツリーって、こんなに素敵なものだったんだね」

「…」

…やべぇ。寿々花さんがクリスマスツリーを見て、何やら一つの悟りの境地に達している。

今までどんな経験をしたら、家庭用クリスマスツリーを見て半泣きになるほど感動するんだよ…。

「綺麗だなー…。ずっと見てたいな」

チカチカと光る電飾の色が、寿々花さんの瞳に映っていた。

…そうか。

まぁ、なんだ。ともかく、あれだな。

気に入らなかった訳じゃないんだな。ツリー。

むしろ気に入り過ぎて感動した、ということだな?

…大袈裟過ぎんだろ、と言いたいところだが。

寿々花さんにとっては、大袈裟でも何でもないんだろう。

何せ、長年恋い続けた念願のクリスマスツリーなのだから。

存分に堪能してくれ。…この際、毎日電飾点けっぱなしでも良いぞ。

え?電気代?

良いよ。今月くらいは。

どうせ生活にかかるお金は、全部無月院本家が出してくれるんだ。

遠慮なく、ガンガン使っていこうぜ。

…クリスマスが終わったら、嫌でも片付けなきゃならないものだからな。

だから、それまでは…。

「綺麗だねー、悠理君。ツリー綺麗だね」

「あぁ。綺麗だな」

念願のクリスマスツリー、一緒に楽しもうぜ。
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