アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…ツリーを買ってきた数日後。 

の、昼休み。





「へぇー。無月院の姉さん、そんなにクリスマスツリーにハマってんの?」

「あぁ。もう毎日被り付きで見てるよ…」

いくら綺麗だと言っても、毎日同じものをずーっと見ていたら、さすがに見慣れてくると言うか…。

3日も経てば、次第に見飽きるものだと思っていたが。

あのお嬢さん、飽きるということを知らない。

俺が放課後に家に帰ったら、寿々花さんはホラー映画もお絵かきもシャボン玉も、雛堂がくれたゲーム機も、何もかもそっちのけ。

リビングのクリスマスツリーの前に座って、じーっとツリーを見つめている。

かろうじて晩飯と風呂の時だけは、ツリーの前から離れるけど。

それ以外の時は、もうずーっとツリーに夢中。

ツリーは勿論キラキラしてるし、それを眺めている寿々花さんの目もキラキラしてるし。

若干その光景、ホラーなんだが?

俺が声をかけずに放っておいたら、多分朝までそうやってツリーを眺めてると思う。

毎晩、俺が「そろそろ寝なさい」と言うまで、ツリーの前から動かない。
 
そうすると、渋々、嫌々ながらリビングを離れ、自分の部屋に帰るけど…。

寝てる間にツリーの傍を離れるのが嫌なんだって。

しかし。

「昨日なんて、ついに自分の部屋で寝るのやめて、ツリーの前に布団敷いて寝てたよ…」

「何それ。めっちゃ可愛いじゃん」

そうか?

一周回って、クリスマスツリー依存症だよ。

寝てる間もクリスマスツリーが見られる、って大喜びだった。

良いけどさ。別にあんたの家なんだから、好きなところで好きなように寝れば良いけど。俺が口出しするようなことじゃないけど。

…風邪、引かないでくれよ?

あろうことか、「悠理君もリビングで一緒に寝よ」と誘ってくるので、全力で拒否した。

寿々花さんは残念そうだったけど、さすがにそれは無理。

クリスマスツリーの隣で寝るのが嫌なんじゃなくて、寿々花さんと枕を並べて寝るのが嫌なんだよ。

その、ほら、倫理的な意味でな?

一晩中クリスマスツリーに夢中で、朝になっても、学校に行くギリギリまでツリーの前に座っている。

一応、学校には行ってるみたいだけど。

そろそろ、「昼間もクリスマスツリーを見てたいから、しばらく学校休む」と言い出すんじゃないかと、俺は心配である。
 
まさか学校側も、サボりの動機がクリスマスツリーだとは思わんだろうな…。

「クリスマスツリーくらいで、あんなに喜ぶとはな…」

「でも、ツリーだけじゃないんでしょう?買ってきたのは」

と、乙無。

あぁ、そうなんだよ。

「デパートに色々売ってたからな。クリスマスグッズ…。目につくものは買ってきた」

「ってことは、今悠理兄さんの家は、クリスマスムード一色って感じになってるんだろうなー」

なってる。

玄関前にはクリスマス・リースを、部屋の中にはクリスマスツリーを始め。

サンタのスノードームやら、雪の模様のクリスマスモビールやら。

サイドテーブルの上のアドベンドカレンダーも、勿論忘れてはいない。

「いっそ、ハロウィンパーティーの時みたいに、今度はクリスマスパーティーでもやるか?」

と、雛堂が提案した。

それはまた…いかにも寿々花さんが喜びそう、だが。

「…って言いたいところだけど、それは無理なんだよなぁ…残念ながら」

自分で提案しておきながら、雛堂はそう言って、ぐでーん、と机に突っ伏した。
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