アンハッピー・ウエディング〜後編〜
近頃は、毎日クリスマスツリーに夢中だった寿々花さんだが。

今日は、いつもとちょっと様子が違う。

…と、言うのも。




「悠理君、まだ?まだ無理?まだ?」

うきうきわくわく、と聞いてくる聞いてくる。

そうだな…見たところ…。

「…うん、もう良いんじゃないかな」

「やったー」

両手を上げて大袈裟に喜んで、一体何にそんなに興奮しているのかと言うと。

本日のおやつである。

無月院家のお嬢様が、こんなに喜ぶおやつ。

きっと、さぞかし名のある名店で買ったスイーツなのだろう、と思うことだろう。

確かに有名なおやつだぞ。古くから日本で食べられてきた、歴史あるおやつだ。

ではご紹介しよう。本日の我が家のおやつ。

「はい、干し柿」

「わーい。ありがとー悠理君」

…嘘は言ってないぞ。

立派なおやつじゃん。干し柿。

自家製だぞ。

数週間前に干した干し柿、そろそろ食べ頃かなと思って。

早速家の中に持って入って、吊るしていたロープから外す。

そのうちの一個を、寿々花さんにあげた。

サラダにしても良いし、ヨーグルトを添えても良いし、クリームチーズと一緒に食べても良いけど。

やっぱり俺は、シンプルにそのまま齧り付くのが一番好き。

問題は、寿々花さんの口に合うかどうか…だよな。

元々好き嫌い…と言うか、食わず嫌いの多い人だからな。

それに干し柿って、俺は美味しいと思うけど。

貧乏臭いとか、色、見た目が気持ち悪いとか、食感が好きじゃないとか、そういう理由で割と好き嫌い分かれる印象。

小学校の時、一回「日本の古き良き献立」云々で、給食のデザートに干し柿が出たことがあるんだが。

その時、結構な数のクラスメイトが干し柿を嫌がって残していて、びっくりしたことを覚えている。

俺は小さい頃から、普通におやつとして食べてたから。

納豆ほどじゃないけど、好き嫌いの分かれる食べ物であるらしい。

…何度も言うが、俺は好きなんだけどな。

果たして、これが寿々花さんの口に合うだろうか。

ましてや、無月院家のお嬢様の口に。

「これが干し柿かー…」

寿々花さんは、しげしげと干し柿を見つめていた。

興味津々のご様子。

何にでも興味を持つのは、寿々花さんの短所でもあり、長所でもある。

「無理して食べなくて良いからな。口に合わないも思ったら残しても、」

「ぱくっ」

あ、食べちゃった…。

初めての食べ物なのに、もうちょっと警戒心はないのか。

「もぐもぐ…」

「お、おい。そんなに勢い良く齧って大丈夫か…?」

「何これ、マズっ!」とか言って、吐き出したらどうしよう。

しかし、寿々花さんは。

「もぐもぐ。悠理君が作ったものなんだから、不味いはずがないよ」

何?その信頼感。

何処から出てくるんだよ。

信じてくれるのは嬉しいけど、俺だって料理に失敗することは普通にあるからな。
< 372 / 645 >

この作品をシェア

pagetop