アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…で?

「…どう?味」

「ふぇ?」

「干し柿。美味い?」

「うん。うまいー」

目ぇキラッキラの寿々花さんである。

そうか、美味いか。

そりゃ良かった。

「これって本当に柿?しぶーい柿なの?」

「あぁ。しぶーい柿だよ」

「しぶーい柿が、こんなに甘くなるの?干すだけで?何で?」

「…何で…なんだろうな?」

改めて聞かれると、返答に困ってしまう。

俺、毎年家で干し柿作ってたけど。一度も考えたことなかった。

干し柿って…何で、干すと甘くなるんだ…?

分からずに作ってたのかよ。だっせぇ。

偉い人、誰か教えてくれ。何で渋柿は干すと甘くなるのか。

「大丈夫だ、気にするな。美味けりゃそれで良い」

「うん、分かったー」

何でかは分からないけど、渋柿は干すと甘く、美味しくなるんだよ。

それだけ分かってれば良い。

「あ、種があるからな。種は食べずに、」

「食べちゃったー」

気がつくと、寿々花さんはぺろっと干し柿を一個、あっという間に完食していた。

種ごとまるまる食べやがった。

こら。ペッてしなさい。種ごと食べる奴があるか。

ごめん。先に言わなかった俺が悪かった。

「干し柿って美味しいねー」

余程気に入ったらしく、早速二個目をパクついていた。

こんなに気に入ってるなら、また追加で干そうかな。

俺も、今年初めての干し柿を自分で食べてみた。

うん、これはなかなか。

「美味しい?悠理君。うまい?」

「うん。美味いよ」

「良かったねー」

誰が何と言おうと、やっぱり美味しい。

冬の味だなぁ。

「そのまま食べるのも良いけど、ヨーグルトと一緒に食べたり、サラダにしても美味しいぞ」

「ほぇー、凄い。可能性が無限大だぁ」

その通り。

しかし、問題もある。

「一気にたくさん食べたら駄目だからな。今日は、これでおしまい」

「…!いっぱい食べたら駄目なの?」

そう、駄目なんだよ。

これが欠点だよな。

「干し柿を食べ過ぎると、身体に石が出来るんだって」

俺も昔、今の寿々花さんみたいに、無邪気に美味しいからって干し柿を食べてたけど。

そんな俺を、よく母さんがそう言って叱ったものだ。

干し柿は一日一個、多くても二個まで。

これ、大原則な。

「明日からは、一日一個な」

「そうなんだ…。一日に一個しか食べられないお菓子…。何だか凄く希少価値のあるお菓子だね」

「お、おう…」

「そんな珍しい凄い食べ物を作れるなんて…悠理君って、やっぱり凄い」

…前向きな解釈してんなぁ…。

そんな大層なものだっけ?干し柿って。

…まぁ、良いか。そういうことにしておこう。

「美味しいなぁ、悠理君の作るご飯は何でも…。…フランスにいるお姉様にも、一度食べさせてあげたい」

と、寿々花さんはしみじみ呟いた。

「いや、そんな…。とてもじゃないけど、椿姫お嬢さんに食べさせられるようなものは…」

「…あ、そうだ。椿姫お姉様と言えば。この間、アドベンドカレンダーを送ってくれた時に…」

寿々花さんがそう言いかけた、その時だった。

突然、我が家のインターホンが鳴り響いた。
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