アンハッピー・ウエディング〜後編〜
ったく、よく来客のある家だよ。

今度は誰だ?また宅配便か。

「ちょっと出てくる」

「私も行くー」

てこてこ、と寿々花さんが後ろからついてきた。

誰かと思って、玄関の扉を開けたところ。

そこにいたのは。

「ごきげんよう」

「げっ…!」

顔を見た途端、思わず扉を閉めそうになった。

…出たな。この野郎。

「あ、円城寺君だ…」

そう。我が家を訪ねてきたのは、寿々花さんの元婚約者。

円城寺雷人であった。

何でここにいるんだよ。あんた、イギリス留学中じゃなかったのかよ。

しょっちゅう帰ってきてんな。本当に留学してんのか?

「…何でいるんだよ?」

「随分な言い方だな。貧乏人は知らないのかもしれないが、今はクリスマス休暇中なんだ」

やれやれ、とばかりに頭を振る円城寺。

ふーん。クリスマス休暇…。

要するに、冬休みってことな。

休みの度に日本に帰ってきて、そしてわざわざここに…寿々花さんのもとを訪ねてきていると。

来るな、とまでは言わねぇよ。

ただ、来るなら来るで、アポイントメントを取ってから来てくれないか。
 
何で突然来るんだよ。迷惑だろうが。
 
それとも何か。自分の訪問は、いつだって歓迎されて然るべきだと?

調子に乗るな。迷惑なもんは迷惑だ。特にあんたはな。 

「日本でも、この時期は学校が休みなんだろう?暇してるだろうと思って、訪ねてきてあげたよ」

何様?

「生憎だが、こっちはまだ休みじゃないし、ついでに暇でもねーよ」

あんたと一緒にしてくれるな。

「そうだよ。今、悠理君と一緒におやつを食べてるところだったんだから」

と、誇らしげに胸を張る寿々花さん。

「おやつ…?ほう、アフタヌーンティーか。何を食べたのかな?スコーン?ペストリー?それともサンドイッチ…」

お生憎様。

そんな御大層な、優雅なアフタヌーンティー(笑)ではない。

「よし、言ってやれ。寿々花さん」

「うん。干し柿だよ」

「…は?ほしがき?」 

知らないのか、干し柿。

イギリス留学して英語ペラペラでも、干し柿一つ知らないんじゃあな。

「何だ、それは…。新しい焼き菓子の名前か?」

「ううん。渋柿を干したおやつだよ」

「か、柿…?」

「ほら、あれ」

と言って寿々花さんは、庭先でカーテンのように干している干し柿を指差した。

どうよ。

我が家の、自慢の干し柿だぞ。
 
しかし円城寺は、露骨に顔をしかめた。

「何だ、あれは…?あれが食べ物なのか?」

「うん。凄く美味しいんだよ。渋柿を干したら甘くなるの。凄い発見でしょ?」

「いや、別に…。あんな、庶民の貧乏臭そうな食べ物…」

何だと?

「一日に一個しか食べられない、とっても貴重な食べ物なんだよ」

「…!あれが…?」

寿々花さん、ナイスフォロー。

そう。一日に一個しか食べられない、大変希少価値の高い食べ物なんだよ。凄いだろ?

…そう思うと、とんでもなく干し柿の価値が爆上がりしてるような気がする。
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