アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「え?マジ?マジなの?無月院の姉さん、何処の誰とデートに行くのさ」

「別に…デートではないだろ。ちょっと…日曜日に…出掛けるだけだよ」

大袈裟なことを言うんじゃねぇ。

寿々花さんが円城寺と出掛けるなんて、初めてじゃないんだから。

それなのに。

「え?日曜日?…ってことは、クリスマスイブ?」

「…そうだよ」

「クリスマスイブに、誰と出掛けんの?女友達?」

「…いや、男…」

「何処に行くんだよ?」

「俺もよく知らないけど…バレエ観に行くんだってさ」

「クリスマスイブに!バレエ!?踊る方のバレエ?」

「そう、それ…」

「クリスマスにバレエということは、くるみ割り人形ですかね」

と、乙無。

あぁ、そういやそんなこと言ってたっけ。

バレエのことなんて全ッ然知らないから、くるみ割り人形と言われてもストーリーも何も分からないけど。

「バレエ、観に行くだけ?」

「…その後一緒に、フレンチ・レストランでディナーだって」

「…完全にデートじゃねぇか!」

頭、ガツンと殴られたような気がした。

だよな。やっぱり。

俺もそうなんじゃないかと思ってたけど、やっぱりそうだよな?

「ちょっと出掛けるどころの騒ぎじゃねぇよ。完全にデートじゃん!しかもバレエ公演にフレンチディナーなんて、高校生レベルのデートじゃねぇぞ!」

「リッチな大人のデートって感じですね」

いかにも、金持ちのお坊っちゃまとお嬢様のデートって感じだよな。

平日でも相当ヤバいけど、しかもそれがクリスマスイブ。

完全にデートです。どうもありがとうございました。

…って、ありがとうございましたじゃねよ。

全然有り難くねーから。

「何やってんだよ悠理兄さん!ちゃんと繋いどかないと駄目じゃん!何処の馬の骨とデートなんかすんだよ!」

「お、俺に言われても知らねーよ!向こうが勝手に、押し付けるように決めてきて…」

「だからって、みすみす行かせちゃ駄目だろ!そこは『その日は既に俺とデートの約束してるから』とか言って格好良く断るのが男ってもんだろ!」

知るかよ。そんなこと今更言われたって。

俺だって突然のことで、何も言えなかったんだよ。

大体、寿々花さんとクリスマスイブに約束なんて、何もしてなかったし。

「どうすんだよ?イブに優雅にバレエ観て、夜景の見えるレストランで、リッチにディナー食べながら、無月院の姉さんがバラの花束でも渡されたら」

「は?」

「何処ぞの馬の骨とも知れない奴に、クリスマスプレゼントとして指輪とかもらってたら!」

「は…?」

「ロマンティックな雰囲気に絆されて、無月院の姉さんがそいつに惚れるようなことになったら…!」

「はぁ…!?」

「…さすがの悠理兄さんでも、もう太刀打ち出来んぞ」

「…」

…一体何を言ってるんだ雛堂。あんたは。

頭の中が大パニックだよ。

「…そ、そんな…大袈裟な…」

「確かに大也さんの言い方は大袈裟ですけど、しかし有り得ない話じゃないと思いますけどね」

乙無まで。

あんたら、突然何を言い出すんだよ。
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