アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「寿々花さんも、その相手の方も、どういうつもりでイブに約束を取り付けたのか知りませんが…。どんな言い訳をしても、普通に考えればクリスマスデートでしょう」

そ、それは。

…うん。認める。

「クリスマスイブにデートの誘いを受けたら、どんなに寿々花さんが鈍い方でも、女性なら誰でも意識するのでは?」

「そ、そんな…。寿々花さんがそんな…あの人にその気は…」

「寿々花さんにその気がなくても、相手にその気があるのなら、絆されもすると思いますけど」

…。

…怖いこと言わないでもらえないか。

「ましてや、今日というクリスマスイブの日に、自分の為にこのような豪華なデートを用意してくれた…ともなれば、いくら寿々花さんが朴念仁でも、何も感じないはずはないでしょう」

「…」

「分かる。むしろ朴念仁だからこそ、そういう、ここぞというシチュエーションで覚醒するんだよな」

と、雛堂。

覚醒って何だよ。寿々花さんが何に覚醒するって言うんだ?

有り得ない。寿々花さんに限って。

有り得ない…と言いたいが。

でも…円城寺は、寿々花さんの元婚約者。

全く脈ナシとは言い切れないだろう?

だって、だってさ。普通に、一般常識的に考えてみろ。

世間が浮かれるクリスマスシーズンだってのに、自家製干し柿作って喜んでるような男と。

優雅にバレエ観劇&フレンチ・レストランのディナーを奢ってくれる男。

女性視点からすれば、どちらが魅力的かなんて言うまでもない。

ディナーの最中に、さっき雛堂が言ったような、小気味の良いプレゼントを渡されでもしてみろ。

いくら円城寺がムカつくお坊っちゃまでも、プレゼントをもらって悪い気はしないはず。

ましてや、寿々花さんはこれまで、ろくにクリスマスを祝った経験がない。

つまり寿々花さんは今回、生まれて初めてクリスマスイブにクリスマスらしいことをするのだ。

…円城寺と一緒にな。

そう思うと、やっぱりちゃぶ台返ししたくなった。

…ないけど。ちゃぶ台。
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