アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…10分後。

何とか雛堂を引き留め、リビングに上げた。

その間に寿々花さんを自分の部屋に戻らせて、着替えさせてきた。

「悠理君、見て。着替えたー」

「…あ、そう…」

もうな。良いから、良いからもう座っててくれ。

これ以上余計な誤解を生まないでくれよ。頼むから。

と、言おうとした側から。

「あのね、悠理君がね、乱暴に服を脱がせるんだよ。痛いって言っても無理矢理するの」

などという、またしても激しい誤解を招きかねない発言。

「…!痛がってるのを、無理矢理…!?」

雛堂はドン引きの表情で、「うわぁ…」と俺を見つめた。

「ちょっと待て、違う。何を誤解してるんだ雛堂!」

「…星見の兄さん。いかに夫婦間であってもな、無理矢理は良くないと思うんだわ。ちゃんとそういうことは、パートナーの同意を得た上でな?」

「真面目な顔して、何言ってんだよ…!?」

ちげーよ、馬鹿。誤解をするな。

頼むから寿々花さん、あんたはちょっと黙っててくれ。

「違うんだよ、これは。誤解なんだ、雛堂。俺の話を聞いてくれ」

「おぉ、聞いてやるよ星見の兄さん」

「俺はただ、そう…寿々花さんの服を脱がそうとしてただけだよ」

…言ってしまってから思った。

…俺も何言ってんの?

暑さで頭をやられてるのかもしれない。

「うわぁ…。いっそ清々しい…」

ほら。雛堂がまた新たな誤解をしてる。

「違うんだよ。開き直ろうとしてるんじゃなくて、これは…!」

「ごめんな、星見の兄さん。自分、新学期から兄さんとの付き合いを考えさせてもらうわ」

「本ッ当に違うんだって!信じてくれよ俺を!」

そりゃ、現行犯逮捕みたいな瞬間を見られたけども。

あれは俺が望んでやってたことじゃなくて。そう、全部寿々花さんが悪いんだ。

え?女性に責任を擦り付けるのかって?

そうだよ。全部寿々花さんが悪いんだ。

俺は何も悪くない。悪くないはずなんだ。

…悪くないってことにしてくれ。

「そ、そ、そんなことより!雛堂、あんた今日は何しに来たんだよ?」

「うわぁ、強引に話をすり替えようとしてる…」

「良いから!もうその話は忘れてくれ」

事故だったんだよ。事故。不幸な事故!

もう忘れてくれ。俺も忘れるから。

すると。

「これなぁに?おっきい荷物」

寿々花さんが、雛堂の持ってきた大きなエコバッグを指差した。

ナイスだ寿々花さん、その調子で話を逸らしてくれ。

「あぁ、これ?これな…。今日、これを星見の兄さんちでやろうと思って、持ってきたんだわ」

と、雛堂が答えた。

「…何だ?それ」

「でもなぁ…。星見の兄さんち、なんか妖しいお取り込み中だからさぁ。やっぱり帰ろうかな…」

「…もう忘れろっての」

良いか、俺はもうスルーするからな。なかったことにするから。

え?無責任?

うるせぇ。俺は無罪だ。
< 38 / 645 >

この作品をシェア

pagetop