アンハッピー・ウエディング〜後編〜
それから必死に、リカバリーを試みたのだが。

焦げてしまったものを、ナマの状態に戻すことなど出来るはずもなく。

本日の食卓には、焦げて表面が黒くなったハンバーグが並ぶことになった。

焦げの酷い部分は引っ剥がしたのだけど…。

焦げたところを食べると癌になるって言うけど、あれってマジなの?

それとも都市伝説?

焦げた部分を取り払っても、全体的に焼き過ぎて硬くなってしまっている。

あぁ…折角のハンバーグが。酷い有り様に…。

「こんなもん食えるか!」と突き返されても、文句は言えない実態である。

しかし。

「大丈夫、ちゃんと美味しいよ」

寿々花さんは文句の一つも言わないどころか、お世辞でもそう言って食べてくれた。

優しい。

「ごめんな…。本当、酷い失敗して…」

「こんなの失敗のうちに入らないよ。フライパンが爆発した訳じゃないんだから」

寿々花さんが言うと、説得力が段違いだな。

「それにしても、珍しいね。悠理君がお料理中にボーッとしてるなんて…」

「そ、それは…」

「何か考え事?」

ぎくっ…。

寿々花さんにまで見破られるなんて…俺ってそんなに分かりやすいのか?

「べ、別に…そういう訳じゃないけど…」

「そっかー」 

「そ、それより。これ、干し柿のサラダ食べてみろよ」

「うん、食べるー」

…誤魔化しきったか?何とか。

干し柿のサラダで誤魔化していくスタイル。

「…美味いか?」

「うん。うまいー」

「…良かった…」

ハンバーグは焦げたけど、サラダは失敗してないからな。

ボーッとしてちゃ駄目だな…。寿々花さんにまで怪しまれたら、誤魔化すのが大変だ。

何だって俺が、こんなことで悩まなきゃいけないんだよ。

別に悩む必要なんてないじゃん。

いっそ本人に聞けば良い。「クリスマス当日、何かしたいことあるか」って。

…それで「ない」って言われたら、心に隙間風。

それとも、「クリスマスパーティーを開こう」ってド直球に誘うべきか…?

「…ねぇ、悠理君」

「…」

でも、二人きりで「パーティー」というのも…。何すれば良いんだ。

ケーキを用意して、プレゼントを用意して、それから…。

「悠理君。おーい。起きてー」

「…え?あ、うん。何?」

今、俺のこと呼んだ?

「悠理君がボーッとしてる…。…大丈夫?何か悩んでるの?」

「いや、べ、別に…」

やべ。ボーッとしてちゃ駄目だって、自分を律していたつもりが。

むしろ、余計な心配をさせてしまってるじゃないか。愚か者め。

「私で良かったら、相談してくれて良いんだよ。私は悠理君よりお姉さんだから。人生経験もいっぱいだよ」

えへん、と胸を張る寿々花さん。

気持ちは嬉しいけど。気持ちだけは嬉しいんだけど…。

…その人生経験って、果たして頼りになるのか…?
< 381 / 645 >

この作品をシェア

pagetop