アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「余程、お花が好きなのね。男性の方なのに、珍しいわ」

「え、えっと…。は、はい…」

まさか、「別に好きじゃないけど、園芸委員の仕事を押し付けられたから仕方なく」とも言えず。

俺は、曖昧に頷くことしか出来なかった。

「そうだ、このお花、良かったら切り花にして持って帰る?」

と、小花衣先輩が聞いてきた。

「え?」

「お花、お好きなんでしょう?」

「あ、え、えぇと、は、はい…」

…そういうことにしておいてください。

「で、でも…学校の花なのに…」

「悠理さんはいつも、真面目に園芸委員のお仕事を頑張ってくれてるから。そのご褒美よ」

…良いのか?そんなこと。勝手に。

あ、でも、そうか…。園芸委員会の委員長は小花衣先輩なんだから、その小花衣先輩が「良い」と言えば、良いのか。

「少し待っててね」

そう言って、小花衣先輩は花壇に咲いている花を、何本か切り。

薄紙に巻いて、花束のようにして。

ご丁寧にリボンまで巻いて、本当に小さな花束みたいにして渡してくれた。

「はい、どうぞ」

「ど、どうも…」

別に、特別花が好きな訳でもないのに。

それどころか、今日なんて園芸委員の仕事を危うく忘れて帰るところだったのに。

こんな、ささやかなご褒美までもらってしまって…何だか申し訳ない。

…えぇっと。

「あの…この花って…?」

園芸委員なのに、育ててる花の名前も知らずに済みません。

「あぁ、そのお花はクリスマスローズと言うの。綺麗でしょう?」

へぇ、クリスマスローズ…。そんな花があるのか。

クリスマスの時期に咲くから、クリスマスローズってこと?

「クリスマスローズだけに、私から、ちょっと早めのクリスマスプレゼントということにしてね」

と、小花衣先輩はにこっと微笑んだ。

成程、そういうこと…。

クリスマスプレゼントに…クリスマスローズの花束、か…。

…これはチャンスかもしれない。

「あの…小花衣先輩、つかぬことをお聞きするんですが」

「なぁに?」

「その…相談なんですけど…。実は、小花衣先輩くらいの歳の女性に、クリスマスプレゼントを渡そうと思ってるんですけど…」

「まぁ、そうなの。素敵ね」

そりゃどうも。

「小花衣先輩くらいの女性って、何が欲しいんでしょうか」

誕生日プレゼントの時も聞いたよな。小花衣先輩に。

だって、仕方ないじゃないか。他に相談出来そうな女性なんていないし。

「それってもしかして、お誕生日の時にプレゼントを渡したいって仰ってた方と同じ人?」

「そ、そうです」

小花衣先輩も覚えてたか。さすがにな。

実はあなたのクラスメイトなんですよ、とは口が裂けても言えないけど。

「お誕生日に続いて、クリスマスプレゼントなんて…。素敵ね。心優しい恋人に恵まれて、その女性はとても幸せ者ね」

「…はっ?」

ちょ、いきなり何を言い出すんですか。
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