アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「そ、そんな…。別に、そんなんじゃ…」

「あら。恋人じゃないの?大切な人のようだから、てっきり恋人かと…」

「た…大切な人…」

「…違うの?」

…それは。

…そんな言い方はズルくね?

「…大切な人、というのは当たってます」

「ほら。やっぱり」

「で、でも、恋人という訳じゃ…」

「ふふ。そう、そうね。恋人ではないのよね」

ちょっと。何だその微笑みは。

絶対誤解してるって。「熱心に否定しちゃって、可愛らしい」とか思ってるって。

本当に違うんだって…。

しかし、この人に何を言っても多分、暖簾に腕押し。糠に釘。

…もう良いよ。勝手に誤解しておいてくれ。

それより、肝心の相談事を優先しよう。

「…それで、クリスマスプレゼントのことですけど…何が良いと思います?」

小花衣先輩だったら、やっぱり花束をもらうのが嬉しいんだろうか。

…薔薇の花束とか?

定番過ぎて逆に重いって言うか…。

薔薇の花束をプレゼントして許されるのは、イケメンに限ると思う。

それとも、やっぱり小洒落たアクセサリーとか…?

でも、寿々花さんがアクセサリーなんかつけてるところ、一度も見たことないんだよな。

大体、未だに「楽だから」って言って、俺のお古のジャージを着て寝てるような人だからな。

アクセサリーをプレゼントしたとして、つけてくれるものだろうか。

対する、小花衣先輩のご意見は。

「誕生日の時にも言ったと思うけど…物がどうであれ、心が一番よ。心がこもっていたら、どんなプレゼントでも嬉しいものよ」
 
にこにこ、と微笑んで言う小花衣先輩。

それは…勿論その通りなんだけど。

「悠理さんがこんなに一生懸命悩んで決めたプレゼントなら、きっと何でも嬉しいと思うわ」

「そ…そうは言いますけど…」

「悠理さんの恋人は、とても幸せね」

…だから恋人じゃないんですって。

さては、人の話を真面目に聞いてないな?この人…。

「…花の方が良いんですかね。それともアクセサリーとか…?本人に聞くべきだと思います?」

「そうね…。その方のご趣味にもよるでしょうけど…」

寿々花さんの…趣味?

…ホラー映画鑑賞とか?

ろくでもない趣味をお持ちだ。

「これは、私がお友達のプレゼントを買う時の決め方なのだけど」

と、小花衣先輩が言った。

「はい?」

「『これにしよう』と決めて、それを買いに行くのではなくて…。お店に行って、売っているものを眺めながら決めるのはどうかしら」

「…えっ…?」

「これはあの人に似合うかも、これなんかプレゼントしたら喜ぶかもって…。そんな素敵な品物に出会えるかもしれないでしょう?」

「…」

…そう来たか。

確かに、理に適ってるかもしれない。

晩飯の献立が決まらないままスーパーに行って、「今日ピーマン安いな。よし、チンジャオロースにしよう」とその場で決めるようなもんか。 

俺もよくやる。

…って、小花衣先輩が言ってるのは、晩飯の献立の話じゃないけどな。

でも、理屈はそれと一緒だろ?

何を買うのか決めてからお店に行くんじゃなくて、お店に行ってから何を買うのか決める。

逆転の発想だな。

「ありがとうございます。…参考になりました」

「力になれたなら良かったわ。悠理さんの恋人、喜んでくれると良いわね」

「…」

だから、恋人じゃないんだって。
< 386 / 645 >

この作品をシェア

pagetop