アンハッピー・ウエディング〜後編〜
な…何でこんなところに雛堂が?

あまりにびっくりして、俺はまじまじと雛堂の顔を見つめてしまった。

…本当に雛堂だよな?

向こうも俺と同じくらいびっくりした顔をしていたから、間違いない。

「悠理兄さん、何でこんなところに居るのさ?」

「…それはこっちの台詞だ」

あんたこそ、何でこんなところに居るんだ。

しかも雛堂は、あれほど俺が入るのを躊躇っていた玩具コーナーに、普通に入っていた。

そして、普通に買い物をしていた。

買ったばかりの玩具が、山盛り入った紙袋を抱えていた。

「な…何買ってんの?」

「これ?今年のレンジャーシリーズ、お野菜戦隊ベジtableの変身グッズと必殺技武器の玩具」

へー、ふーん。成程…。

「…雛堂って、そういうので遊ぶ趣味があるのか?」

「ちげーよ、失礼な。明日のチビ共のクリプレだよ。リクエストされたから買いに来たの」

あ、そういうことだったか…。

「なんだ…。てっきり、雛堂が新しい趣味に目覚めたのかと…」

「悠理兄さんは、自分のこと何だと思ってんだよ…」

いや、別に雛堂がレンジャーモノの変身グッズで遊んでいたとしても、俺は軽蔑しないよ。

何せ我が家には、シャボン玉やおままごとセットで遊ぶ女子高生がいるからな。

それに比べたら、戦隊モノの玩具なんて可愛いもんだ。

「お野菜戦隊の…何だっけ。ベジパープル?の変身アイテムが欲しいって言われたんだけどさー」

…お野菜戦隊ベジパープル…。

…ナス?

「ベジパープルって人気らしくて、売ってなかったんだわ。仕方ないから、ベジレッドの変身グッズ買っといた」

ベジレッド…。

…にんじん?

トマトという線もあるか。

「違うの買ったら、『これ違う!』って言われるんじゃね?」

「言われると思うけど、でもしょうがないじゃん、これしかないんだから。必殺技ソードの方はちゃんとベジパープルのを買ったから、それで妥協しろっての」

変身アイテムはベジレッドなのに、必殺技アイテムはベジパープルなのか。

ちぐはぐだなぁ。

まぁ、雛堂の言う通り売ってないものは仕方ない。

「他にも、新作のゲームソフトだの、ブロックだの、果てはコミック全巻まで買わされてさぁ…。荷物重くて死にそうだわ」

「そうか…。それは大変だな」

見るからに大荷物だもんな、雛堂。

それ、全部弟達へのクリスマスプレゼントなのか…。

わざわざ買いに来てあげるなんて、偉いじゃないか。

雛堂でさえ、小さい子の為に重い荷物を持って

玩具コーナーに入るのを躊躇っていた自分が恥ずかしくなってくる。

「…それで、悠理兄さんは何しに来たのさ?」 

「え?いや、俺は…寿々花さんへのクリスマスプレゼントを買いに…」

「あー、はいはい。成程ねー。そんなことだろうと思った」

雛堂は、うんうん、と頷いた。 

「なら、何でそんなところ彷徨いてんのさ。女の子向けの玩具なら、向こうだよ」

「それは…うん」

分かってるんだけど、玩具コーナーに入るのが躊躇われて…。

…なんて、思いっきり玩具コーナーで買い物してる雛堂を前に、今更そんなこと言ってる場合じゃないよな。

「折角だし、付き合ってやるよ。ほら」

「…どうも」

雛堂に誘われるようにして、俺は玩具コーナーに足を踏み入れた。
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