アンハッピー・ウエディング〜後編〜
雛堂と一緒に、女児向け玩具コーナーに入ると。

色んな玩具が売られていたよ。女の子向けの可愛らしい玩具が。たくさん。

周りには幼稚園〜小学校低学年くらいの女の子がたくさんいて。

そんな中に男子高校生二人が紛れ込むのは、そりゃもう大層恥ずかしかったが…。

さすがに慣れているのか、雛堂は全く気にしていないようで。

雛堂が気にしてないのに、俺だけ気にしていたら、何だか余計に恥ずかしく思えるような気がして。

周りの視線は、もう気にしないことにした。

それより、さっさと決めてさっさと出ようぜ。

「色々あるなー。悠理兄さん、どれにするんだ?」

「…どれにしようかな…」

着せ替え人形、ドールハウス、お医者さんごっこセット、子供用ミニドレッサー。等々。

キラキラしたピンク色の玩具がいっぱい。

どれが良いんだろうな…。どれでも喜びそうな気がするけど。

あ、水で消せるお絵描きボード、なんてのもあるぞ。

お絵描き好きだからなー、寿々花さん。喜ぶかも…。

他にも色々あるぞ。人間の声に反応して喋るぬいぐるみとか。

こういうのも面白そうだよな。

「良いよなー、女の子の玩具って。どれも可愛くてさ」

と、雛堂が女児向け玩具コーナーを眺めながら言った。

「バリエーションも豊かだしさ」

「男向けの玩具だって、バリエーション豊かだろ?」

「ないない。今自分が買ったようなチャンバラごっこグッズと、ブロックとミニカーくらいしかないぞ」

それは偏見だって。雛堂。

女の子向けの玩具なんて初めて見るから、余計新鮮に見えるだけだよ。

「おっ、ミカちゃん人形とかいるじゃん。あっちはミニグランドピアノだって。…おっ、あれなんて面白そうじゃね?めっちゃリアルだし、可愛いじゃん」

と、雛堂はうきうきしながら、次々と棚の一角を指差して言った。

ふーん。まぁ悪くないかも…。

…と、思っていると。

「…」

背後から、突然謎の視線を感じ。

「…はっ!」

俺と雛堂は、くるりと振り向いた。

するとそこには、うさぎのぬいぐるみを大事そうに抱えた2、3歳くらいの小さな女の子がいて。

じーっと、俺達を見つめていた。

「…」

しばし、無言で見つめ合う俺達と女児。

するとその女の子はおもむろに振り向き、近くにいた母親に母親の服の裾を掴み。

そして、俺達の方を指差して言った。

「ままー、あのお兄ちゃん達、女の子のおもちゃ見てるー」

「しっ、見ちゃいけません」

お母さんはすぐそう言って、俺達を一瞬だけじろっと一瞥し。

そのまま女の子の手を引いて、急いでその場を離れていった。

「…」

「…」

これには、さすがの俺と雛堂も無言。

さっきのお母さんの顔。

完全に、ロリコンを見る目だった。

…心に来るわぁ…。ああいうの。

今すぐあの親子連れを追いかけていって、

「違うんですよ。自分用じゃありません。家族の為にクリスマスプレゼントを買いに来ただけなんです!」と訴えたい。

しかし、その前に。俺に出来ることは。

とにかくもう、何でも良いからさっさと決めて、この女児向け玩具コーナーから離れることだった。

俺は、その場をぐるりと見渡し。

さっき雛堂が勧めたその玩具を掴んで、さっさとレジに向かったのだった。

こんな適当な決め方でごめんな、寿々花さん。
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