アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「ってか、今日乙無はどうしたんだよ」

大抵、あんたらセットで来るだろ。

今日は乙無、来てないみたいだが。

…まぁ、来てなくて助かったけどな。さっきのアレを見られずに済んだから。

「乙無の兄さん?誘ったんだけどさー。来てくれなかったんだわ」

「ふーん…」

「『僕はあなたみたいに暇じゃないんです。邪神イングレア様の眷属として、果たさなければならない使命がありますから』とか言って。夏休みの宿題でもやってんのかね?」

さぁな。

今の声真似、絶妙に似てたな。

「雛堂、あんたこそ夏休みの宿題やったのか?」

「え?明日やれば良くね?」

典型的な、8月31日にまとめて宿題やるタイプか。

それやる人、結構いるけどさ。

本当に一日で終わらせられた人は見たことない。

結局、半泣きで終わらなかった宿題を持って新学期を迎えてる印象。

宿題は計画的にやっとけ、ってことだな。

「私はね、夏休みの宿題ちゃんとやったんだよ」

えへん、と胸を張る寿々花さん。

「へぇ?でも、女子部は夏休みの宿題ないって、星見の兄さんから聞いたんだけど」

「うん。だから、悠理君が特別に、私に宿題を出してくれたの。秘密の個人レッスンしたんだよ」

「ふーん…。特別に…秘密の個人レッスン…ねぇ」

…おい。雛堂。

何こっちを見てんだよ。

「…言いたいことがあるなら、はっきり言ったらどうだ?」

「いいや?別に何も。星見の兄さんがむっつりスケベだってことは、よ〜く分かったから」

何も分かってないじゃないかよ、おい。

寿々花さんも、いちいち誤解を招く言い方をするのはやめくれないか?

「別に疚しいことは何もないぞ。ただお使いを頼んだだけであって…」

「私ね、初めてで不安だったけど。でも悠理君がイチから全部、優しく教えてくれたんだよ」

「そっかぁ。星見の兄さん、おめーは一回もげろ」

「ち、が、う、んだっての!」

寿々花さん、頼むからあんたは黙っててくれ。

その誤解を招く言い方をやめてくれ!

わざとか?天然そうな顔して、わざと言ってんのか?

もうそうとしか思えなくなってきた。

「今日から自分、星見の兄さんのこと、スケベの兄さんって呼んで良い?」

「…良い訳ないだろ…?」

「で、夏休みもそろそろ終わるからさぁ。最後の思い出作りしようと思って、これ」

と言って、強引に話を戻した雛堂は。

持ってきた、大きく膨らんだエコバッグの中を見せてくれた。
< 39 / 645 >

この作品をシェア

pagetop