アンハッピー・ウエディング〜後編〜
会計を済ませて、綺麗にラッピングシてもらったプレゼントを、紙袋に入れて戻ってきた。

レジの横で、雛堂が俺の会計を待っていてくれた。

「雛堂…」

「悠理兄さん…」

互いに、無言で視線を送り、言葉を交わし合った。

何も言わなくても分かる。

「さっきのは、聞かなかったことにしような」と。

…うん。俺もそう思う。

俺は何も見なかったし、何も聞かなかった。OK?

「…よし。買い物して疲れたし、どっかでなんか飲むか」

「そうだな…」

俺達は強引に話を変えるように、近くにあったコーヒーショップに入った。

「はー、荷物が重っ…。毎年のことながら、骨が折れるわ…」

「お疲れさん、雛堂…。珍しく雛堂が頑張ってるから、ここは俺が奢るよ」

どうぞ、好きなものを頼んでくれ。

「マジかよ。悠理兄さん優しい!…珍しくって何?」

「で、どれにするんだ?」

「そうだなー。じゃあ、このクリスマスフラペチーノのチョコチップチョコソース増し…。に、ホワイトチョコスコーンつけて良い?」

「どうぞ」

「やったぜ!」

めっちゃ甘そうだな。

疲れてるから、余計甘いものが欲しくなるんだろう。

分かるよ。気持ちは。

俺もさっきのこと忘れたいから、甘いもの頼んで気を紛らわせよう。

ドリンクを注文して、店内でそれを飲んだ。

クリスマスフラペチーノ、甘くて美味しい。

ちょっと甘過ぎるような気もするが。

「クリスマス前の土曜日なだけあって、人が多いよなー」

と、雛堂。

「本当にな…」

「ってか、悠理兄さん。明日じゃん。馬の骨と無月院の姉さんのデート」

思わず、フラペチーノを噴き出すところだった。

…それを言うなって。

「…そうだよ…」

「大丈夫、大丈夫。さっきのプレゼントもらったら、無月院の姉さんだって喜んでくれるよ。あとはケーキがあれば完璧だな」

ケーキ…ケーキね。

…そういや、何だかんだでケーキの予約、してなかった。

…軽くピンチなのでは?

「上手く行くように祈ってるぜ。馬の骨に無月院の姉さん、盗られんなよ」

「…」

…分かってるよ。そんなこと。

別に寿々花さんは俺のものではないし、独占したい訳でもない。

だが、少なくとも円城寺にだけは、どうしても負けたくはなかった。

あのムカつくお坊っちゃまが、ドヤ顔で寿々花さんの手を取って歩いているかと思うと。

そりゃ、出会い頭に顔面パンチの一つでも食らわせてやりたくなるというものだろう。

「頑張れよ、兄さん。応援してるからさ」

「…そりゃどうも…」

明日のことを考えると、今から大層憂鬱だよ。
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