アンハッピー・ウエディング〜後編〜
木枯らし吹く頃の章5
そして、やって来たクリスマスイブ。当日。

その日寿々花さんは、珍しい格好をしていた。

「うわっ…。どうしたんだよ、寿々花さん。それ…」

「見て見て。似合うー?」

寿々花さんは、その場でくるりと回ってみせた。

今日の寿々花さんは、いつもの適当な服ではなく。

薄いピンク色の、袖がふんわりとした膝丈のドレスを身に着けていた。

胸に大きなリボンが付いていて、ドレスの裾にもレースとフリルがたっぷり。

露いかにも少女趣味って感じ。

「可愛い?似合う?」

「え?あ、うん…。まぁ、良いんじゃねぇの…?」

あんたは顔が良いからな。中身はともかく。

だから、大抵何を着ても似合うし、可愛いけど…。

「どうしたんだ…?そんなおめかしして…」

「これ?円城寺君が送ってくれたんだー」

…円城寺だと?

「バレエ観に行くのに、どれすこーどを守らなきゃいけないんだって」

あー、はいはいそういうこと。

円城寺自ら、デートの衣装を送り付けてきたんだな。

これを着てこいよ、とばかりに。

何様だあいつは。

「ふーん…。別に、いつもの格好でも充分だと思うけどね…」

円城寺が送ってくれた服を、わざわざ着てあげている寿々花さんを見ると。

何だか、寿々花さんが円城寺を喜ばせる為に、おめかししているように思えて。

…なんかムカついた。

「それに、いくらなんでも少女趣味が過ぎるんじゃないか?可愛過ぎるだろう」

「そうかな?」

「リボンデカ過ぎだし、ピンクピンクしてて馬鹿っぽいし…。寿々花さん、そんなにピンク色好きじゃなかっただろ」

もっと落ち着いた色の方が良いんじゃないの。寿々花さんの好きな緑とか、青系の色とか…。

いかにも、「男が思う女の子の好きそうな服」って感じ。分かる?

「大体、そんな格好して寒くないのか」

そんなペラッペラなドレスより、厚手のセーターにコートの方が良いんじゃねぇの。

「…何だか、突然悠理君が冷たい気がする…」

ぎくっ。

違うんだよ。円城寺がくれた服を着てると思うと、ムカついて。

「べ、別にそんなことは…」

「似合ってない?…やっぱり可愛くない?変?」

「へ、変じゃないけど…。いつもの寿々花さんの方が良いのになーって思っただけだよ」

「いつもの私?…いつものって、悠理君は…」

と、寿々花さんが言いかけたその時。

我が家のインターホンが鳴って、奴が迎えにやって来た。

「やぁ、迎えに来たよ」

「あ、円城寺君だ」

今日の円城寺は、寿々花さんと同じようにドレスアップしていた。

小洒落た燕尾服みたいな服を着て。

胸ポケットからちょこっと覗かせたハンカチが、何故だが無性に腹立たしかった。

何だそれ。小粋なおしゃれのつもりか?

だせーよ、馬鹿。

「準備は出来てるね?」

「うん、出来たよー」

「…なんだ、ヘアメイクの一つもしてないじゃないか」

ちゃんと円城寺の送った服を着て、充分綺麗にドレスアップしているはずなのに。

円城寺は寿々花さんの格好を見て、やれやれ、と溜め息をついた。 

…今日も最高にムカつくな。この男は。
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