アンハッピー・ウエディング〜後編〜
寿々花さんがうちに帰ってきたのは、それから二時間後。

俺はリビングのソファに座って、また、ひっきりなしにコーヒーを飲みながら待っていた。

寝る前だってのにコーヒーがぶ飲みかよ。

しかし、その時の俺は、そんなことには全く注意を払っていなかった。

「ただいまー。悠理君」

「…!」

帰ってきた。

俺はマグカップをテーブルに置いて、急いで玄関に寿々花さんを迎えに行った。

「お帰り…」

「うん。ただいまー」

…一応、元気そうではある。

変わった様子はない。…今のところ。

「…円城寺は?もう帰ったのか」

「うん、そこで別れたよ」

と、寿々花さんは家の前を指差した。

ふーん…。

まぁ、ちゃんと帰ってきたんだから良かった。

これでもし、「今夜はお泊りします」なんて連絡が入ろうものなら。

何処に泊まっていたのだとしても、速攻連れ戻しに迎えに行くところだった。

そうならなくて良かった。

「まぁ、入れよ。…寒くなかったか?」

「うんとねー…。…ちょっと寒い」

ほら、言わんこっちゃない。そんな格好してるから。

「全く…。風邪を引くなよ。ほら」

俺は、自分が着ていた厚手のパーカーを寿々花さんの肩にパサッと掛けてやった。

明日も出掛ける予定なのに、今日風邪を引いたら大変だ。

クリスマスに熱出して寝込むなんて、冗談じゃない。

「あ…ありがとう、悠理君」

寿々花さんは、俺のパーカーに袖を通した。

「えへへ、あったかい」

「そりゃ、さっきまで着てたからな…」

「それに、ちょっとぶかぶか。悠理君って意外と大きいんだねー」

…意外とって何?

チビに見える癖に、ってこと?…悪かったな。

それより、暖房。

部屋の暖房、温度高くしよう。

寿々花さんと一緒にリビングに戻ると、俺は真っ先に暖房の温度を2℃ほど高くした。

これだけ暖かくしておけば大丈夫だろう。

「お部屋がコーヒーの匂いでいっぱいだー」

「あ、ごめん…」

またやっちゃったよ。さっきまでずっとコーヒー飲んでたから。

「悠理君って、コーヒー好きだよね」

「昔は紅茶派だったんだけどな…。最近になってコーヒーの美味しさに気づいたって言うか…」

味覚が大人になったということかな。

…それよりも。

「寿々花さん、円城寺との…その…」

「ふぇ?」

「…どうだったんだ?お出掛けは」

デートはどうだったんだ、という言葉を飲み込んで、俺はそう聞いた。

円城寺とデートだなんて、絶対に認めてやるものか。
 
「バレエ、観てきたんだろ?」

「観たよー。…途中で寝ちゃったけど」

…そんなことだろうと思った。

寿々花さんがブレずにいつも通りで、心底安心したよ。
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