アンハッピー・ウエディング〜後編〜
良い。寿々花さんはそれで良い。

ご高尚(笑)なバレエ公演を観て、「あのシーンがあれこれこうで素晴らしかった」なんて言わなくて良い。

SS席の客席で、堂々と居眠りしてるくらいが丁度良い。

…え?舞台で踊ってるダンサーに失礼だろって?

その人達には、俺が謝っておくよ。心の中でな。

「その後は?レストランで食事してきたんだろ?」

「うん」

「美味しかったか?」

「昨日食べた、悠理君の干し柿のヨーグルト和えの方が美味しかったなー」

干し柿万歳。

干し柿に負けるフレンチ・レストラン…。ふっ、ざまぁ。

何だろう。寿々花さんの胃袋をガッツリ掴んでいるという、謎の優越感がある。

しかし。

「あ、そうだ。そこで円城寺君に、クリスマスプレゼントもらったんだー」

と、いきなりとんでもない発言。

何だと。あの男やりやがったな。

ちょっと目を離したらこれだ。

「何をもらったんだよ。ちょっと見せてみろ」

「え。何で悠理君、そんな食い気味なの?」

「良いから見せてみろって」

俺が昨日買ってきたプレゼントとどっちがセンスあるか、勝負してやろうじゃないか。

「えーっとねー。ちょっと待ってねー。うーんと、何処にやったかなー」

ごそごそ、とポケットを探っていた。

今さっきもらってきたばかりのはずなのに、もう所在が怪しいとは。

所詮その程度の扱いということである。ざまぁ。

「うーんと…これかな?あ、違う。これちり紙だった」

「…どっかに落っことしてきたんじゃないだろうな」

「大丈夫だよー。そんなはず…。…えっ」

おい。マジでか。

それはさすがに、円城寺が気の毒…いや、あいつに同情はしないぞ。俺は。

すると。

「あ、あったー」

寿々花さんはポケットから、小さなリングケースっぽいものを取り出した。

おい。あれって本当にリングケースじゃないだろうな。

ってことは、あの中に入っているのは…。

「…何?それ」

「えっとねー、耳につける…ピアスだって」

寿々花さんは、リングケース…改め、ピアスケースをパカッ、と開けて中身を見せてくれた。

そこには、キラキラと光り輝く一組のビアス。

「…ピアス…」

…そう来たか。

図々しくも、いきなり指輪をプレゼントしてきた…訳じゃなかったのは安心したが。

ピアスも大概…危険ラインに踏み込んでないか?

女友達に、気軽にクリスマスプレゼントを渡す範囲を超えてると思うんだが。

非常に危ない。

俺が選んだクリスマスプレゼントと、良い勝負と言わざるを得ない。

と言うか…ある意味では敗北している。

何故かと言うと、このピアス…。

「…なぁ、俺って宝石とか、全く詳しくないんだけどさ」

「うん」

「これって…本物のダイヤモンド…なのか?」

ピアスにくっついている、この神々しいばかりのキラキラした石。

これの正体如何では、円城寺に対する評価が変わる恐れが…。
< 396 / 645 >

この作品をシェア

pagetop