アンハッピー・ウエディング〜後編〜
それなのに。

「うーん。私も宝石、全然分かんないや」

寿々花さんは、けろっとしてそう言った。

あんた、それでも名家無月院家のお嬢様かよ。

「でも円城寺君、確か…テファニー?の、0.5カラット?のピアスだとか何とか…」

「…!マジかよ。じゃあ本物じゃないか」

宝石に詳しくない俺でも、その有名ブランドは知ってるぞ。

貧乏人には、決して手が出ない幻のブランド。

そんなお高い宝石店で、0.5カラットのダイヤモンドのピアス…。

このちっぽけなピアスケースに、一体どれほどの値打があることだろう。

想像しただけで、くらくらと目眩がしそうになる。

恐ろしい…。

何より恐ろしいのは、そのような高級品を受け取ったにも関わらず。

寿々花さんにはその自覚は全くなく、危うく道端に落っことすところだったという点である。

もうちょっと…大事に扱ってあげても良いんじゃないか?

いや、円城寺からのプレゼントだから、じゃなくて。

それなりにお高いものなんだろう?多分。少なくとも、それをプレゼントした円城寺がドヤ顔するくらいには。

まぁあいつはいつも、デフォルトでドヤ顔してるけど。

円城寺には全く同情するつもりはないが、しかしプレゼントされたモノに罪はないからな。

そのピアスに罪はない。

せめてもうちょっと、大事に扱ってやってくれよ。

ピアスの方も、まさか全く自分の価値を理解していない持ち主に送られるとは、思ってもみなかっただろうなぁ。

まぁ、そんなものだ。モノの価値が分からなければ、路傍の石だろうとダイヤモンドだろうと、全く区別つかないもん。

「すげーな…。…別に恋人でもない相手に、よくもまぁそんなプレゼントを渡せたもんだ」

どう考えても脈アリと言うか…。

「狙ってる」感があるよな。

その気がなければ、こんな気合いの入ったプレゼントは渡さないだろ。

大抵の女性だったら、クリスマスプレゼントにテファニーのピアスなんか渡されたら、胸キュンするんだろうが。

残念ながら、うちの寿々花さんはけろっとした態度で。

「私、ピアスの穴開けてないから、ピアスもらってもつけられないや」

…これだもんなぁ。

俺もさっき思ったよ。「寿々花さんって、ピアスの穴開けてたっけ?」って。

如何せんこの人、アクセサリーなんてつけてるところ、一度も見たことないかな。

いくらお高いピアスをプレゼントしても、つける穴を開けてないんじゃ意味がない。

宝の持ち腐れとはこのことである。

「まぁいっかー。キラキラしてて綺麗だし、お部屋に飾っておこーっと」

挙げ句、テファニーのお高いダイヤモンドのピアスが、ただのインテリアに。

これには、円城寺にざまぁと言わざるを得ない。

このクリスマスプレゼントの為に、随分奮発したに違いない。
 
そうまでしたプレゼントが、全く本来の役目を果たすことなく、ただのインテリアと化すのだから。

やはり、プレゼントは相手の欲しがるものを選ぶこと。これが鉄則だと思い知らされるな。
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