アンハッピー・ウエディング〜後編〜
「どうよ。美味いだろ?」

何故かドヤ顔の雛堂。

「うん、美味い」

久々に食べるせいだろうか。瑞々しくて甘くて、めっちゃ美味い。

スイカってこんなに美味しかったっけ?

「雛堂も食べろよ」

「あー、いや。自分は良いや。家でしこたま食わされてさぁ。もう飽き飽きしてんだわ。カブトムシになった気分」

あ、そうなのか…。

でも、二人で食べるには量、多過ぎるんだが?

でけーよ、半玉。

「こんなに大きくて甘くて…。高かったんじゃないのか?」

差し入れしてくれるのは嬉しいけど、何だか申し訳なくなってくる。

スイカって、小玉スイカでも一玉二千円くらいするだろ?

こんなに大きなスイカなら、多分一玉五千円近くするのでは?

半玉だから半額…だとしても、それでもそれなりのお値段はする訳で。

そんな気軽にもらって良いものではない。

しかし、雛堂はあっけらかんとしたもので。

「いーのいーの。買ったんじゃないんだよ、これ。元々貰い物なんだわ」

「貰い物?」

「うん。うちのチビの中に、親戚が農家やってるチビがいてさぁ。夏休み中に親戚んとこに帰って、お土産にスイカをコンテナごと持って帰ってきたんだ。その余り」

「…」

…えーっと。

俺は寿々花さんと顔を見合わせ、互いに首を傾げた。

何だかえらく込み入った話し方をしているが。

「うちのチビ…って。あんたの弟なんだから、あんたにとっても親戚じゃないのか?」

それを何だ。他人事のように。

しかし。

「へ?チビの親戚なんだから、自分は関係ねーよ」

「え?でも…あんたの弟の話を…」

「弟って言っても、血ぃ繋がってねーし…」

…えっ。

一気に、雛堂の家庭環境が複雑になり始めた。

母親の再婚相手の連れ子、みたいな?

「え?何で星見の兄さん、そんなポカンとして…。…あ、うちが里親家庭だって話してなかったっけ?」

「え。里…親?」

って言ったら、あれだろ?

血の繋がらない子供が、別の家庭に引き取られてそこで育ててもらうっていう…。

「あ、ごめん。話したつもりでいたわ。そう、自分里子なんだわ。チビ達も皆そう。だから皆他人なんだよ」

「…」

…物凄く重い家庭事情を、めちゃくちゃサラッと言わなかったか?

そういうことは、もっと勿体ぶっていえよ

と言うか、言わなくても良いよ。わざわざ。

「…マジで?」

「うん、マジで」

「そ…そうなのか…」

それは…知らなかったなぁ。

「雛堂も…色々大変だな」

呑気な顔してるように見えて、意外とそうでもないのかも。

家では結構無理してんのかなぁ?

「いやぁ、あんたさんも人のこと言えないだろ。その歳で親の決めたフィアンセと暮らしてるなんて、大概だぞ」

そ、それはまぁそうなんだけど。

「ま、家の問題なんで何処にでも、誰にでもあるもんだからな。気ぃ遣ってくれなくて良いから。今まで通り頼むよ」

…あっけらかんとしてるな。

雛堂なりの…決死のカミングアウトだったのかも。
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