アンハッピー・ウエディング〜後編〜
…とはいえ、雛堂の家庭がどうであろうと、俺には関係のないこと。

だからどうした、ってことだ。

雛堂は雛堂だろ?その事実に変わりはない。

それに、必ずしも両親が揃っている家庭が幸せ、とは限らないからな。

いくら家族に囲まれていても、寿々花さんみたいに、全く心が満たされずに育つ子供だっている。

それに比べたら、雛堂は真っ当に育ってる方だよ。

グレたり捻くれたりせず、きちんと学校通って。

こうして、人に対する気遣いも出来る訳だから。

「ま、そんなしんみりした話はどうでも良いな。さぁ、無限院の姉さん。スイカお代わりどーぞ」

「わーい。ありがとー」

寿々花さんは、雛堂のカミングアウトに全く動じることなく。

一心不乱に、スイカに齧り付いていらっしゃった。

雛堂の家庭事情、スイカ以下かよ。

「ほれ、星見の兄さんも」

「…あぁ。ありがとう」

じゃ、俺も気にしないことにするよ。

俺だって、寿々花さんとのこと、気ぃ遣ってもらってるからな。

お互い様って奴だ。

「どう?美味い?」

「うん、美味しいよ」

「だろ?」

雛堂は、シャクシャクと音を立ててスイカを齧る寿々花さんを、しばしじーっと見つめていた…。

…かと思ったら。

「なぁ、無月院の姉さん」

「なーに?」

「知ってるか?スイカの種食べたら、お腹の中でスイカが生えてくるんだぞ」

…何を幼稚園児みたいな、しょうもないことを言ってるんだ。

小さい子がスイカ食べてたら、高確率で言われるアレな。

子供の時は、そう言われると何だか不安になってきたものだが。

今では、根も葉もない嘘だと分かっている。

…しかし。

うちの寿々花さんは、頭の中身が幼稚園児なので。

「…!本当?」

案の定、本気にしている。

「本当、本当。もしかして無月院の姉さん、知らずに食べてたの?」

「…どうしよう。種、もういっぱい食べちゃった…」

「あーあ。そりゃ大変だ。腹の中にスイカ畑が出来るな」

おい、雛堂。

暇つぶしがてらに、うちの寿々花さんをからかって遊ぶんじゃない。

「悠理君、私、お腹にスイカが生えてくるんだって」

「…嘘に決まってるだろ…?」

あんた、学年一成績良い癖に、分からないのか?

腹の中でスイカが育つかよ。ちょっと冷静になってもう一度考えてみろ。

しかし、うちの寿々花さんは、そんなことではへこたれなかった。

「でも、いっか。お腹の中にスイカ畑が出来たら、いつでもスイカ食べ放題だね」

…何?そのポジティブな解釈。

「めげねぇなー、無月院の姉さん。強っ」

「雛堂…。余計なことを言うんじゃねぇ」

そんなに食べたかったら、腹の中でスイカ畑作らなくても、スーパーで買ってくるっての。
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