アンハッピー・ウエディング〜後編〜
ひとしきり、食べられるだけスイカを食べたが。

それでも、やっぱり食べきれなかった。

でけーよ、スイカが。

「はぁ、もう無理…」

「おいおい、星見の兄さん。あんたの本気はそんなもんかよ?まだまだ残ってんじゃん」

「相当食べた方だろ。乙無じゃないんだから、これ以上は無理だって…」

寿々花さんも、さすがにさっきから手ぇ止まっちゃってるし。

今晩の夕食、もう入りそうにない。

乙無なら際限なく食べて、完食してたのかもしれないけど。

俺達はもう無理。

「残りは冷蔵庫に入れといて…また後で食べるよ」

「おう。何ならお代わり持ってくるから、食べ切ったら教えてくれ」

もう良いって。

今日だけで、数年分のスイカを一気に食べたような気分だから。

あとは乙無に差し入れしてやってくれよ。

「さてと。そんじゃ、自分はそろそろ帰るわ」

「あぁ…。スイカありがとうな」

「良いってことよ。このお礼は…そうだな、新学期に、夏休みの宿題移さしてもらうことでお礼を、」

「自分でやれ」

「星見の兄さん、手厳しっ…!」

それはそれ、これはこれだろうが。

宿題は自分でやれ。

「じゃあな、星見の兄さん」

「あぁ。新学期にな」

「あ、そうだ。一個言い忘れてた」

帰ろうとして、雛堂は立ち止まってこちらを振り返り。

「何だよ?」

「仲良しなのは良いけど、今日みたいに昼間に来客もあるんだし、やっぱり昼間っからそういうことに及ぶのは良くな、」

「早く帰れ」

一刻も早く帰れ。そして忘れろ。

一生思い出すなよ。

「…?悠理君、そういうことって何?」

自分が誤解されていることに気づいていない寿々花さんは、きょとんと首を傾げていた。

あんたは…本当に、呑気で良いよなぁ…。

「…あんたは一生、知らなくて良いことだよ…」

溜め息混じりに、俺はそう答えたのだった。
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