アンハッピー・ウエディング〜後編〜
一晩で?一晩でこうなる?

いやに寒いなーとは思ってたけど、まさかここまで降っていたとは。

幸い、雪は明け方には止んだらしく、今は降っていない。

が、夜の間に積もった雪が、外を真っ白に染めていた。

この寒い中、犬の散歩をさせていた若いお兄さんが、ツルッと足を滑らせて尻餅をついているのが見えた。

気の毒に。見ちゃってごめんな。

「あっぶねぇ…」

こんな時は、外に出ず大人しく家の中で巣ごもりしてるのが身の為だぞ。

まぁ、犬の散歩はそうも言ってられないんだろうけど。

しかし、うちの庭は大丈夫だろうか?屋根とか…。

雪かきとかするべき…?

全く、今日は大晦日だから、一日ゆっくり過ごして、一人忘年会と洒落込もうと思っていたのに。

朝からこんなんじゃ、ちっともくつろいだ気分にはなれな、

「悠理君。悠理くーん!」

どたどたどた、と廊下を走ってくる音と、俺を呼ぶ声が聞こえた。

次の瞬間、またノックもなしに、ばーんと俺の部屋の扉が開けられた。

現れた寿々花さんは、なんと着替えもしておらず、相変わらず俺のジャージ…。

…だけでは寒かったのか、その上に分厚いコートを被っていた。

しかも、そのコート。

背中に黒文字で、「女番長」という文字がプリントされていた。

噴き出すかと思った。

何だよその服。何処で売ってたんだ。何で買ったんだ。

「悠理君、大変だよ!」

あんたの、その格好の方が大変だよ。

と言いたいのを、必死に堪え。

「どうした?何が大変なんだ?」

「あのね。外がね…真っ白」

「あぁ、うん…。今、俺も見てたところだよ」

まさかこんなに積もるとはなぁ。

今年も終わりという師走の最後の日に。やってくれるよ。

どうせならもう一日待って、新年を美しい雪景色で迎える…方が、風情があって良かったかもしれない。

「雪だるま。悠理君、雪だるま作ろー」

小学生かよ。あんたは。

「雪だるまの前に…まずはちょっと雪かきしないと」

「ふぇ?雪かき?」

「今年最後の力仕事だ。…手伝ってくれるか?」

「うん、やるー」

何でもやる気満々なのは、寿々花さんの良いところだが。

雪の上にすってんころり、だけはやめてくれよ。雪で転ぶとか、さっきの犬の散歩お兄さんじゃないんだから。

大晦日に転んで怪我なんて、さすがに洒落にならんからな。

「じゃあ、俺は玄関周り始めるから…。寿々花さん、庭の方を頼めるか」

「うん、分かったー」

じゃ、早いとこ始めるとしようか。
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