アンハッピー・ウエディング〜後編〜
雪かきって、あまり経験したことがないから知らなかったけど。

思っていたより重労働なんだな。

雪が重いの何のって。

寒いと思って厚着して外に出たのに、ちょっと作業している間に、もう汗だく。

雪かきなんてろくにやったことないから、道具も普通のスコップしかないせいでもある。

…って、道具のせいにするのは言い訳だな。

ここ最近、コタツを出してからというもの。

コタツにすっぽり収まって、ついついダラダラ過ごしてばかりいたから。身体がなまっているのかもしれない。

だらしない生活をしたツケが回ってきた、ということだ。

「はー…。ダルい…」

溜め息をざっくざっく、と捗らない地味な作業を続けていると。

「悠理君。終わったよー」

ひょこっ、と寿々花さんが顔を覗かせた。

「あぁ、そうか。お疲れさん…」

と、軽く返事をした。

…うん?

「…えっ。終わったのか?」

「ふぇ?」

「早くね?」

いくらなんでも。

俺なんか、まだ半分も終わってないのに。

この広い庭を、まさかそんな一瞬で、と思って庭を見に行くと。

「…すげぇ綺麗になってる…!」

「えへへ。頑張っちゃったー」

天才。雪かきの天才現る。

「つ…疲れてないのか?雪、重かっただろ…?」

「?何ともなかったよ?」

きょとん、と首を傾げる寿々花さん。

そうだった。忘れてた。

このお嬢さん、とんでもない力持ちなんだった。

…なぁ、まさか。まさかなんだけど…。

「…疲れてるところ、ごめんな。俺手際が悪くてさ…。こっち、まだ終わってないから。一緒に玄関周りの雪かきも手伝ってくれないか?」

「うん、良いよー」

寿々花さんは、一仕事終えた疲れなど全く見せず。

お粗末なスコップを手に、一緒に雪かきを手伝ってくれた。

その動きの素早いこと、素早いこと。

積雪の下にスコップをザクッと突っ込んで、ガッと大量に持ち上げて、ドサッと捨てる。

ごめん。言いたいこと分かる?伝わってる?

とにかく、ダイナミックな動きで、しかもそれを超絶機敏に行うものだから。

あっという間に。あれよあれよという間に、玄関周りの雪かきも完了。

多分、俺の3倍はよく働いてる。

寿々花さん、あんたはすげぇよ。

前世、除雪車だったんじゃね?

「ふー。終わったねー」

「あぁ…。めちゃくちゃ助かったよ…」

掃除の手伝いも料理の手伝いも、年賀状作りの手伝いも全く向いてなかったが。

まさか、雪かきで類稀な才能を発揮するとは。

人の得手不得手って、分かんないもんだな。

「手伝ってくれてありがとうな。お陰であっという間に終わったよ」

「本当?私、悠理君の役に立てた?」

「あぁ。多分、今年一番役に立った」

「わーい、やったー。一年の最後に一番悠理君のお手伝いが出来て、良かったー」

分かった。今度から、うちで力仕事をする時は。

躊躇いなく、寿々花さんの力を借りることにするよ。

…え?女の子に、しかも無月院家のお嬢様に力仕事を任せるなんて、男として情けなくないのか、って?

うるせぇ。

適材適所ってもんがあるんだよ。
< 435 / 645 >

この作品をシェア

pagetop