アンハッピー・ウエディング〜後編〜
雛堂が帰って、一時間後のことだった。

俺はその時、寿々花さんにせがまれて、寿々花さんのお絵描きに付き合わされていた。

「見て、これ。似顔絵何度も練習して、上手くなったんだよ」

誇らしげに、スケッチブックを見せてくれた。

片手にクレヨンを握り締めて。

「おー…本当だ。よく描けてるじゃん」

「でしょ?でしょ?えへへ」

ちょっと褒めるだけでこれだからな。

俺も、寿々花さんの扱いに手慣れてきたか?

「これが悠理君の似顔絵、それでこっちが…」

「…冷蔵庫のおばけ?」

「ううん、電子レンジのおばけ」

「…へー…」

映画で観たおばけの似顔絵を描くのは、別に良い。変わった趣味だなーとは思うが。 

でも、俺の似顔絵の横に、おばけ描くのやめてくれないかな。

悪霊に取り憑かれてるようにしか見えないんだけど?

つーか、おばけの似顔絵、だいぶ上達してんな。

「上手くなったもんだな、寿々花さん…」

「でしょ?いっぱい練習したから。ほら」

そう言って、寿々花さんはスケッチブックの別のページを開いた。

そこには、練習と思わしき、無数のおばけの似顔絵がびっちり。

怖っ…。ホラーかよ。

しかも、またそのおばけに混じって、俺の顔が描いてある。

横に並べないでくれって。なんか呪われそう。

「そ、そうか…。頑張ったな」

「うん。えへへー」

画伯、寿々花お嬢さん。

似顔絵が上手くなるのは良いが、あんたは一体何処を目指しているんだか…。

ま、いっか。所詮子供の遊びの延長なんだし。

「今度は、別の人を描いてみたらどうだ?」

「別の人?」

「あぁ。例えば…ほら、さっきの雛堂とか」

「スイカくれた人だー」

そう、それそれ。

「あと、乙無とかさ。描いてみたら?」

「神様の眷属の人だー」

そう、それそれ。

…って、そうじゃないけど。

「自称」神の眷属な。

「でも、悠理君を描いてる時が一番楽しいからなー…」

そうなのか?

雛堂と乙無の似顔絵は、お気に召さないと?

「気が進まないか?」

「…ううん。悠理君がそう言うなら、頑張って描いてみるね」

「おぉ…。頑張れ」

何だかやる気が出てきたようで、何より。

寿々花さんはせっせとクレヨンを動かして、新しいページに似顔絵を描き始めた。

…その時だった。

またしても、我が家のインターホンが鳴った。
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