アンハッピー・ウエディング〜後編〜
お正月をどのように過ごすか。

これは人によって様々だと思う。

俺は大抵、毎年初詣に行く。

と言っても、有名な神社に足を運んで、行列に並んで…ではなく。

近所の無名の神社で、パンパンと手を合わせるだけ。

え?あんまりご利益がなさそう?

逆転の発想だ。

いくら大きい神社の立派な神様でも、参拝客が多過ぎたら、一人一人のお願い事を叶えるのは難しいだろう?

でも小さな神社なら、あまり力のない神様でも、参拝客が少ないから、ささやかな俺の願い事も叶えてくれるかもしれない。

…乙無に言わせれば、「神に縋ること自体がナンセンス云々」と馬鹿にされそうだがな。

良いか、こういうのは気の持ちようなんだよ。占いと一緒。

実際に叶わないにしても、毎年の習慣として神社に初詣に行くの。

で、初詣が終わったら、家に帰ってあとはのんびりして過ごす。

これが、俺の毎年の正月の過ごし方なんだが…。

今年は寿々花さんがいるし、この辺の近所の神社なんて知らないし…。

「お…。一応、徒歩圏内にはあるな…」

スマホで、近場の神社の場所を検索してみたところ。

家から歩いて30分くらいのところに、小さな神社があるみたいだ。

ここなら、あんまり人も多くなさそう?

行ってみようかな。

初めて訪ねる神社だからな。慎重に挨拶しないと、神様に警戒されて、新参者の願い事は聞いてくれないかも。

「寿々花さん、ちょっと良いか?」

「ふぇ?」

俺は立ち上がって、コタツで良い子にお絵描きをしている寿々花さんを呼んだ。

初詣に一緒に行くかを聞こうと思ったのに。

ついつい、寿々花さんの手元のスケッチブックが目に入ってしまった。

「…それ、何描いてんの?」

「これ?昨日の夢の中の、雪だるまに潰されてた悠理君」

描くな。そんなもん。

あぁ、聞かなきゃ良かった。

「それより…寿々花さん、俺これから出掛けるんだけど…」

「ふぇっ。悠理君、何処に行くの?」

寿々花さんは、ぽろっと手からクレヨンを取り落とした。

そ、そんなびっくりしなくても。

親に置いていかれる子供でもあるまいに。

「え、えっと…初詣に…」

「…はつもうで…」

「寿々花さんは、何処にも行かないのか?無月院の本家に顔出したり…」

…と、自分で言ってしまってから後悔した。

「本家…おうち…」

俯いて呟く寿々花さんの顔を見て、慌ててしまった。

「あ、いや。行く気がないなら良いんだよ。ただ、その…何処にも行く予定ないのかなって…」

「…うん、ないよ。…悠理君は?」

「えっと…その、俺は…これから初詣に行こうと思って…」

「…そっか…」

「良かったら寿々花さん、他に予定がないなら…一緒に行くか?」

と、尋ねると。

寿々花さんは、弾かれたようにぱっと顔を上げた。

「…うん!行く。悠理君と一緒なら、何処にでも行く」

そ、そうか。

「じゃあ、一緒に行こう。って言っても近所の神社だけど」

「やったー。悠理君とお出掛け〜」

寿々花さんはスケッチブックとクレヨンを置いて、急いで立ち上がった。

こら。ちゃんと片付けなさい。

あと、俺が雪だるまに潰されてるその絵、捨てなさい。
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